エルダー2019年6月号
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2019.648FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫キュウリの海漬け「かっぱ巻き」と「もろきゅう」 「かっぱ巻き」といえば、キュウリを芯にした海の苔り巻きのこと。キュウリは河かっ童ぱが好むことから「かっぱ」とも呼ばれています。若返り効果のビタミンEやカロテンの豊富な海苔といっしょに食べる、お手軽な長寿食といってよいでしょう。「もろきゅう」は、若取りのキュウリに諸もろ味みか味噌をつけて食べる酒しゅ肴こうの一品。暑い日にほおばると、体が涼しくなります。キュウリの原産地はインドのヒマラヤ山麓周辺とみられ、シルクロードを経て、西や東へと伝わっていきました。漢字の胡瓜は、西域の瓜という意味です。平安時代には、すでに「胡瓜」の文字が使われ、「きゅうり」と読ませていますから、かなり古くに渡来していたことがわかります。キュウリは完熟すると黄色の瓜、つまり黄瓜になるところから、「きゅうり」になったと古い書物にあります。現在は黄色のキュウリは見かけませんが、私の子どものころ(戦前)は、たくさん出回り、生食よりも味噌汁の具や漬物などにして、よく食べていました。“海漬け”の夏が来るキュウリの需要が伸び始めたのは明治になり、西洋料理の普及でキャベツなどとともにサラダを食べるようになってからです。戦後になるとサラダにキュウリは欠かせなくなり、品種改良も進んだこともあって人気となり、身近な野菜となりました。キュウリの95%は水分ですが、あざやかなグリーンと、さわやかな噛みごたえが魅力です。主な栄養成分は、カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸などですが、量的にはそれほど多くありません。子どものころ、夏休みに、キュウリを5本くらい手拭いで包んでぶら下げ、よく海水浴に行ったものです。波打ち際へ小さな穴を掘ってキュウリを埋め、流されないように石をのせて置きます。30分も泳いでいると、とても疲れます。なにしろ海では、しっかり力を入れて泳がないと沖に運ばれてしまいます。陸に上がって、キュウリを掘りおこすと、うっすらと塩味がついて、いやあ、うまかったなぁ。これを“海漬け”と呼んでいました。309

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