エルダー2019年6月号
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2019.64慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 委員長・教授ウェルビーイングリサーチセンター長前野隆司さんする、ちょっと違う仕事をしてみる、若い人と話してみる、インターネットを通じて新しい人に出会い、ネットワークを広げる、などでもいいかもしれませんね。―企業としても、高齢労働者に対して幸せを感じられる多様な選択肢を与えることを工夫すべきですね。前野 企業はもちろん、社会全体で多様な選択肢を用意することです。また、個人も自身の能力をさまざまな場面に応用できる力を高めることです。例えば、「私は経理ならだれにも負けないが、社内のやり方しかわからない」という人が他社のやり方を知れば、どこでも通用するコンサルタントになれるかもしれません。楽しく学び直す機会を提供することを、企業も社会も支援していくべきだと思います。これまでは終身雇用で同じ企業に長く勤めていると「私はこれしかできません」という人が多かったのですが、いろいろな人と出会うことで仕事の幅も広がります。SNSなどのインターネットツールを駆使すれば、さまざまなことができるはずです。会社を超えた仕事のマッチングも可能になります。高齢者がお互いを幸せにしていく活動を、社会も積極的に支援していくべきだと思います。―超高齢社会の働き方に関するいろいろなヒントをいただきました。今後はAI(人工知能)の活躍で働き方そのものも変化していきます。企業と個人はどう変わるべきでしょうか。前野 幸福学の観点では、高齢になって個人の殻に閉じこもるのではなく、何歳になっても自分は成長できると思い、企業や地域の枠から出て、いろいろな人との出会いを楽しむオープンな姿勢を持つことが大事です。大企業もこれまでは社内だけでビジネスが完結するクローズドなやり方で成功しましたが、明らかにそういう時代は終わりました。アメーバのように自由自在に組織間の壁を超え、外に対してオープンな風土を持つ企業がこれから生き延びていくでしょう。それができない企業は新しい企業に一気に市場を奪われて、崩壊してしまうかもしれません。崩壊する前に、いろいろな人が知恵を出し合い、多様な能力を持つ人が活き活きと働く社会の基盤をつくっていくことが急務だと思います。 AIは基本的に大量のデータが蓄積されている問題について解くことができます。例えば100万枚のレントゲン画像があれば、医者よりも簡単にガンを見つけ出し、AIが診断を下すことができます。高度な会計処理や弁護士が判例を調べる作業など、だれもが同じようにやっている仕事は全部AIに奪われてしまいます。何の特技もなく、普通で地味な仕事を続けて高齢化してしまうと、それこそAIに職も奪われてしまいます。ではAI社会で生き残るにはどうすればいいでしょうか。100万個の事例がない、自分一人だけの個性・特徴をベースに、創造性や感性を活かした働き方ができれば、まだまだいまのAIには負けません。そのためには、「やってみよう!」の気持ちで新しいことにチャレンジし、常に自分をアップデートすることが大切です。「やってみよう!」の気持ちで常に新しい自分にアップデートを(聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫)

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