エルダー2019年7月号
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特集エルダー13あなたの会社は大丈夫? トラブルから学ぶ高齢者雇用入門トラブルの要因は企業の考えと高齢社員の期待の不一致 はじめに、定年延長の実施によって正社員として長く活躍できる環境が整備されたにもかかわらず、企業が期待していた高齢社員のモチベーションが高まらずに低下してしまった原因を考えてみたいと思います。ここでポイントとなるのは、定年延長対象者となった高齢社員の人事管理に対する企業の考えと、高齢社員の「期待のズレ」です。マンガに登場するA社に勤める、高齢社員の定年延長後の人事管理を確認してみたいと思います。定年延長の実施によって雇用区分は「正社員」であるにもかかわらず、処遇は「再雇用」と同じ―賃金水準が引き下げられたままなことに加えて、正社員に実施している昇給が行われず、賞与も支払われない―という状態です。こうした状況から会社と高齢社員の考え(期待)を整理した図表1をみてください。企業の考えでは雇用区分を現役社員と同じ「正社員」としているものの、処遇(マンガでは「賃金」)は「再雇用」のままとしており、現役社員のそれとは「異なる」対応がとられていることです。一方、高齢社員の期待は雇用区分も処遇も現役社員と「同じ」になることです。こうした両者の考え(期待)を比較すると、定年延長後の雇用区分は「正社員」で一致していますが、処遇は一致していません。定年延長の実施によって新しい定年年齢(以下「新定年年齢」)まで働き続けることになった高齢社員の処遇への期待は、現役社員と同じであったにもかかわらず、会社の対応は異なっていた(再雇用時代の処遇)ため、高齢社員のモチベーションが低くなったのです。定年延長実施後の人事管理の基本方針は分離型ではなく一貫型このような状況を解決するには、高齢社員の適正な処遇を整備することが必要になりますが、そのためにはどのように取り組めばいいのでしょうか。人事管理の基本原則である公平性の観点から考えてみたいと思います。まず高齢社員の人事管理の基本方針は、現役社員と同じ「正社員」としての雇用を新定年年齢まで行う以上、会社は定年延長を高齢者雇用特有の課題ととらえ、高齢社員の人事管理を現役社員のそれと分けて考えるのではなく、社員全体の人事管理の課題として考えることが求められます。すなわち、定年延長後の新定年年齢までの一貫した人事管理の基本方針のもとで、高齢社員の人事管理を考えることです。処遇(賃金)の考え方〜賃金カーブの決済期間〜次に、こうした人事管理の基本方針を受けて展開する高齢社員の処遇の整備について考えて図表1  定年延長後の人事管理に対する会社の考えと定年延長対象者の期待出典: 筆者作成現役社員と比較した高齢社員の人事管理雇用区分処遇(賃金)会社の考え同じ異なる高齢社員の期待同じ同じ両者の考え(期待)のマッチング○×60歳から65歳に定年を延長したA社。60歳以降も正社員として雇用されているものの、処遇は再雇用時代とほとんど変わらず賃金が下がり、高齢社員のモチベーションが下がっているようです。トラブルの要因

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