エルダー2019年7月号
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2019.714みます。一般的には、処遇の整備には負担がともないます。とりわけ、賃金の整備への負担は大きいものです。その理由は、これまでの賃金を決める仕組みは定年延長実施前の定年年齢(以下「旧定年年齢」)をもとに整備されているからです。賃金というと、基本給、賞与、手当などの社員に支払う個別賃金を決める仕組み(以下「賃金制度」)を思い浮かべるでしょう。特に基本給には、年齢給、職能給、職務給などの多様な賃金要素があり、そのなかからどのような賃金要素の組合せで賃金制度を設計するかは企業によって異なります。賃金を決める仕組みには、このような賃金制度の設計のほかに、毎年の賃金を長期間にわたって描いたときの賃金曲線(「賃金プロファイル」あるいは「賃金カーブ」、以下「賃金カーブ」で統一)、つまり年齢別にみた賃金カーブをどのように設定するかという課題があります。一般に賃金は社員の会社への貢献度(以下「貢献度」)の対価であり、貢献度と賃金が同じ(貢献度=賃金)になるように賃金カーブは設定されています。なぜなら、貢献度が賃金よりも大きい場合(貢献度〉賃金)には社員の不満は高まりますし、逆に賃金が貢献度より大きい場合(賃金〉貢献度)は、貢献度以上のコストを会社は負担することになるからです(図表2)。そのため、「貢献度=賃金」となるように賃金カーブは設定され、これに基づいて賃金制度は設計されます。さらに賃金カーブを設定する際の注意点として「貢献度=賃金」をどの程度の期間(以下「決済期間」)で想定するかということがあります。例えば、学生アルバイトを雇用する期間は正社員に比べて短いので、決済期間の短い(例えば、日単位、週単位など)賃金カーブを設定して賃金制度が設計されています。短い決済期間では貢献度と賃金の関係は常に「貢献度=賃金」となり、会社もコスト負担が増えません。しかし、正社員の場合は事情が異なります。正社員は会社の基幹業務をになう雇用区分なので、長く勤めてもらいたいと考えます。そこで、正社員を長期雇用(入社から定年まで)と位置づけることで決済期間の長い賃金カーブが設定でき、それに基づいて賃金制度は設計されます。そのため、決済期間における、ある時点の貢献度と賃金の関係が異なっても(「貢献度〉賃金」あるいは「賃金〉貢献度」)問題はありません。一般に「年功賃金」は、キャリア前半の若手、中堅の時期は「貢献度〉賃金」、キャリア後半のベテランは「賃金〉貢献度」として、決済期間全体で「貢献度=賃金」となるように設定された賃金カーブの特性を持っています(図表3)。図表2  会社への貢献度と賃金の関係出典: 筆者作成貢献度と賃金の関係結果貢献度>賃金社員の不満が高まる貢献度=賃金会社・社員ともに公平貢献度<賃金会社のコスト負担が増加する若年期・中年期ベテラン期入社定年年齢賃金貢献度賃金・貢献度の大きさ貢献度>賃金賃金>貢献度図表3  年功賃金の賃金カーブにみる貢献度と賃金の関係(イメージ図)出典: 筆者作成

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