エルダー2019年7月号
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特集エルダー25あなたの会社は大丈夫? トラブルから学ぶ高齢者雇用入門高齢社員への労働対策として、設備投資は非常に重要です。作業負担の軽減や省力化などが適切に行われれば、年齢にかかわらずだれもが働きやすい職場になります。せっかく設備投資を行うのですから高齢者の特性に応じて、生産性や〝働きやすさ〞の向上につながるように対応したいものです。そこで、本稿では、高齢者の身体特性や職場環境改善のための基本的事項について解説していきます。文字の大きさやコントラストに注意〜高齢者の視覚特性〜まず、高齢者の身体特性と作業環境改善の面から、「視覚特性」を取り上げたいと思います。高齢者は、加齢とともに遠近調節力が低下し、焦点が合わせにくく、小さな文字や目盛りの数値を読むことがむずかしくなっていきます。マンガにもありますが、説明資料のような「小さな文字」は読みづらさの原因になりますので、可能なかぎり大きなサイズにしましょう。また資料だけでなく、操作パネルや案内表示についても同様の配慮が必要です。文字の大きさに加えて、もう一つ重要なポイントは「コントラスト」と「作業環境の明るさ」です。コントラストは、背景と文字の〝明暗差〞を意味し、端的にいえば、文字が背景に対して〝くっきり、はっきり〞しているかどうかを表します。背景が白系であれば文字は黒系、背景が黒系であれば文字は白系にするとよいでしょう。中間色(だいだい色や黄緑色)などはコントラストを下げる要因になりますので、極力避けましょう。また、コントラストだけでなく、文字面の明るさも重要です。ディスプレイ表示の読みやすさについての研究において、高齢者の視覚特性を若齢者と比較した場合、表示輝き度どは、2倍程度にすると最も見やすいという報告もあります。特に明るさが乏しい場合、前述のコントラストの影響を強く受けやすいようです※1。作業環境における明るさ(照度)については、労働安全衛生規則(第604条、605条)やJIS規格(Z9110)もありますので参考にしてください。高音が聞き取りにくくなる〜高齢者の聴覚特性〜次に「聴覚特性」についてみていきます。聴覚は、視覚と同様に加齢とともに低下していきますが、傾向としては低音よりも高音(2000Hz以上)が聞き取りにくくなります。高い音の場合は音量を大きくする必要もありますが、一方で、大きすぎるとうるさく感じやすくなりますので、環境や作業者に応じて調整する必要があります。また背景騒音がある場合や会話などのスピードが速すぎる場合も、聞き取りづらさにつながります(26頁図表1)。高齢者の聴覚特性に配慮した職場環境管理としては、「高音をさける」、「静かな環境を保つ」、「ゆっくり話す」、「補聴器を活用する」などがあげられます。また、音や音声の指示だけでなく、前述した視覚特性に配慮した視覚情報を組み合わせる(例えば、ボタンを押す必要がある場合はボタンが点滅するように機械を設定する、口頭説明に加えて紙資料を用いる)、などの方法も有効です。※1  窪田悟ほか(1999)「高齢者の視覚特性に適合した液晶ディスプレイの文字表示条件」,映像情報メディア学会誌,53(9)pp.1335-1342.多くの高齢社員が働いているD社では、業務効率・生産性の向上と、高齢者が働きやすい職場環境の実現に向け、最新鋭の機械を導入しました。しかし、実際に導入された機械は、高齢者の身体特性に配慮しておらず、高齢者にとっては使いにくいものでした。トラブルの要因

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