エルダー2019年7月号
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高齢者に聞くエルダー41なりました。ここで銀行員の経験が活きるのですから、人生は不思議です。会計ソフトを導入して、パソコンも一から勉強し、会社が安定するまでの11年間勤め上げました。渡邉さんは、建設会社で経理の仕事をしながら、建設業経理事務士3級や給水装置工事主任技術者などの資格を取得して、会社に貢献する。「夫に振り回された人生です」といいながら、挑戦者であることをやめない。「みなと*しごと55」で新たな一歩を高校を卒業して銀行に勤めてから働き詰めの日々で、出産のとき以外は働いていたように思います。経理を担当していた建設会社を退職したのが60代の終わり。それでも、まだ自分にできることが何かあるのではないかと自問自答していました。結局、私は働くことが好きなのだと思います。東京都港区に在住している私は、ある日「みなと*しごと55」という無料職業紹介所のチラシを目にしました。「みなと*しごと55」は、おおむね、55歳以上の方の就業機会の創出を図ることを目的とした就業支援窓口で、2009(平成21)年に開設されました。さっそく相談に出向き、合同説明会などにも参加し、いまお世話になっている「イエノナカカンパニー」の前身の会社を紹介され、2010年に登録しました。その会社は家事代行業を手がけており、これなら70歳を超えた自分でも働けると確信しました。家事代行と一口にいってもその内容は多岐にわたります。登録後、初めてうかがったお宅では朝食づくりが専門でした。奥さまとお嬢さまが犬の散歩に行かれている間に、下のお子さまを見守りながら食事をつくるという仕事もありました。また、「布団を干す」こともあり、正直これは大仕事でした。ただ、食事づくりはお手の物で、栄養士として働いてきた経験が存分に活かせました。失敗も数知れずあります。ガスコンロをピカピカにしようとつい力を入れ過ぎてしまい、コンロを傷つけて青ざめたこともありました。渡邉さんが登録した会社は、いまは「イエノナカカンパニー」として単身者向けの家事サービスやシェアハウスの共用部分の清掃など、時代に対応したサービスを提供、オーダーメイドの家事代行を視野に置いている。家事代行の仕事に生きがいを見出す会社組織が変わることがあり、「仕事がなくなるのでは」と心配したこともありましたが、「何があっても渡邉さんにお願いしたい」というお客さまの言葉に励まされました。現在は月曜日のみ朝8時半から12時半まで朝食づくりや掃除、アイロンかけなどを行っています。下の女の子が生まれたときからのおつき合いで、8年が経ちました。まんなかの男の子がなついてくれず悩んだこともありましたが、挨拶がきちんとできる礼儀正しい子に成長し、とても嬉しく思っています。お客さまがご不在のときは、しっかり留守を預かるという意味で緊張しますが、この緊張感が大切なのだと思います。高齢者には「キョウヨウ」と「キョウイク」が大切だといわれます。つまり、「今きょう日、用ようがあること」「今きょう日、行いくところがあること」。用があり、行くところがある私は幸せです。80歳になろうとする私を必要としてくれる方がいらっしゃるのです。高齢者にとって社会とつながることは、生きがいを持って日々を過ごすために不可欠な要素だと思います。私は地域の消防団でも30年近く活動しており、消防団活動のなかからハンドベル演奏という楽しみを教えてもらいました。30年以上続けている書道と合わせて、私の日々にいろどりを添えてくれます。夫は、いまも元気です。思い立ったら行動するところは昔から変わりませんが、おかげさまで面白い体験をさせてもらいました。真面目一辺倒の家に育った私には刺激的な日々の連続であり、生涯現役を目ざせる原動力はここにあります。

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