エルダー2019年7月号
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エルダー3奥山 広く知られた事例ですが、岐阜県中なか津つ川がわ市の「株式会社加藤製作所」です。100人強の従業員のうち半数が60歳以上です。製造業は改善が生命線で、常に創意工夫が求められますが、高齢者は経験の厚みを活かして、作業工具をより使いやすくする工夫を、お金をかけずにできる人が多いのです。また、土日祝日は高齢者が中心になって工場を動かす体制で365日の稼働を実現させています。若い従業員は土日祝日を休めますし、土日祝日だけ働く高齢者は年金を満額受給しながら生きがい就労※2が可能です。会社も稼働率が上がり、WIN‐WINの関係がつくられています。 製造業以外では、「株式会社麹町エンジニアリング」の事例をご紹介しましょう。代表の鍵かぎ谷たに道生さんは、大手銀行を定年退職して、大学院で高齢者雇用を研究し、修士課程を修了しました。その研究成果を実践するため、60代後半で起業し、大企業を定年退職した人を役員に迎えて経営にあたり、ビルの省エネやコスト削減のコンサルタント業務を行っています。技術面のことはほかの役員に任せ、ご自身は現役時代につちかったファイナンスの専門知識や人脈を活かして、60代後半からの新しいキャリアにチャレンジされています。―「生涯現役社会」を目ざすには、「現役」の働き方も見直す必要がありそうです。奥山 高齢者のために「現役」の働き方をシフトダウンさせるという発想ではなく、「現役」の働き方そのものを変えていくことが必要だと思います。 私は、この会社を起業する前は、スポーツ番組のディレクターを務めており、海外ロケに頻繁に出かけ、部下を何人か率い、昼夜を問わず働いていました。仕事はおもしろかったのですが、長時間労働が続き、8カ月の間1日も休みが取れないなかで、ある日、突発性難聴を発症しました。そうなってようやく、「これでは体も心ももたない」と真剣に考え、功しています。また、後進の育成が高齢者の役割であることを明確に打ち出し、雇用延長の年齢の上限を実質的に撤廃し、若手への技能継承を推進しています。最近では、未経験者の採用も積極的に行っており、子育て中の女性やシングルマザーも採用し、育児中の社員には、子どもの成長に合わせた勤務時間の短縮や、学校行事への参加ができるような柔軟な対応を行っています。―大田区以外、あるいは製造業以外の事例も教えてください。高齢者の能力や就労ニーズを活かして会社と本人がWIN‐WINに※2 生きがい就労…… 就労を通じて社会とのかかわりを持ち、生きがいを感じることにつながる働き方

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