エルダー2019年7月号
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エルダー49研修の対象はエルダーを受け入れる札幌地区のセンターのマネージャーとリーダーの96人。採用が本格化する前年の2016年から始まった。エルダーには親子ほど年齢が違う人もいれば、つちかってきたキャリアに対する自負心が強い人もいる。相手の話を「そうですね」としっかりと受け止めつつ、わからないところは素直に聞いてもらえるような関係性をつくり上げることを重視している。また、前述したテキストを読みやすくする以外にも、「プロバイダー」、「HTML」といった専門用語のカタカナ言葉をわかりやすく言い換えて伝えるようにしている。実際に同社の研修・育成プログラムはエルダーにも好評だ。川添氏は「プレ研修については『こんなにていねいに教えてもらった経験がないので非常にありがたい』という声もいただいています。また、学ぶことに前向きな人が多く『研修資料を家に持ち帰って勉強したい』という人もいます。社外秘なので持ち出せないというと、早めに出社して勉強したいという熱心な人もいるんです」と語る。プレ研修の成果だけではなく、エルダー自身の仕事に対する意欲の高さに改めて驚かされたという。「センターの報告では、受信・発信業務ともに1カ月目のスキル修得状況は若い人よりも若干落ちますが、2カ月目以降はほかの世代と比べても遜そん色しょくなく伸びていきます。特に発信業務は若い人よりもスキルの上達が早い人が多いのです。やはり人生経験が豊富なので、コミュニケーション能力に優れているのでしょう。トップレベルの成績を出している人も多くいます」(川添氏)若年層のスタッフと変わらないパフォーマンスに加えて、定着率も若年層に比べて3倍程度高いという効果も生まれているそうだ。定着率の高いエルダーの活用で安定したコールセンター運営の構築をめざす同社としては札幌地区を皮切りに、エルダーの採用を全国の拠点で展開していく予定だ。だが、そのための課題もある。一つは管理者の年上のスタッフに対する抵抗感だ。もちろんクライアントが嫌がるという事情もあるが、年上のスタッフを採用し、指導することに躊ちゅう躇ちょする管理者も少なくない。川添氏は今後の取組みとしてマネジメント教育の充実をあげる。「現在の研修は、高齢者の特性を知り、その気持ちに配慮した対応をメインに行っていますが、実際に受け入れてからどのように業務を進めていくのか、具体的な事例を通じて学んでもらうようにしたい。例えば、エルダー層を受け入れるための業務の切り分けなど、活用策を工夫する方法も提示していきたいと考えています」一方、少子高齢化が進むなか、今後の高齢者の活用策について、木下本部長はこう語る。「エルダーが増えてくると、エルダーのなかで、後期高齢者を前期高齢者が支える、ということも可能になるのではないかと思います。そこまで行くにはまだ道半ばですが、その準備はできつつあります。まずは高齢のオペレーターが経験を積んで管理者になるためにどうしていくのかという方法論を検討していきたい。人手不足のなかで、定着率の高いエルダーの比率を上げることで、安定したセンター運営を構築していきたいと考えています」同社は競合他社に先駆けて、コールセンター業務での高齢者の雇用にふみ切った。最大のポイントは、科学的分析により高齢者の特性を把握し、その対応方法や人材育成の手法を過去のデータを参考に時間をかけて構築したことである。そして高齢者の意欲をベースにしたスキル開発で高齢者を戦力化することによって、若年層主体のコールセンター業務でも成果を出すことに成功している。同社の取組みは、高齢者ではむずかしいとされる業務でも、方法次第で生産性向上をともなう働き方が可能となる好事例といえるだろう。高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

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