エルダー2019年7月号
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者であると判断されたとしても、法的なリスクがないのであれば、気にする必要はありません。しかしながら、かつては、請負という名の労働者派遣について、「偽装請負」と評され話題になったときと同様の問題が生じることになります。受託者が個人ではなく企業であり、当該企業の労働者が業務遂行のために常駐する場合において、これが業務委託に基づくものではなく、労働者自体を供給するものである場合、職業安定法が禁止する労働者供給事業に該当するおそれがあるほか、労働者派遣法が禁止する無許可派遣業に該当するおそれがあります。これらの違反については、罰則が定められており、受注者側の企業にとっても大きなリスクとなる可能性があります。また、委託であることを前提に、時間外割増賃金を支給していなかったり、休日の確保が十分でなかったりすると、実態が労働者であると判断された場合には、労働基準法違反も生じることになります。使用従属性について3「使用従属性」という考え方が示されたのは、昭和60年12月19日付「労働基準法の『労働者』の判断基準について」と題する労働省(当時)の報告です。判断基準の要素について、①仕事の諾だく否ひの自由の有無、②指揮命令の有無、③時間や場所の拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対償性の有無(労働時間の対価であるか否か)、⑥事業者性の有無(用具の負担関係、報酬の額)、⑦専属性の有無、⑧そのほか(採用選考過程の雇用類似性の有無、福利厚生の適用関係、就業規則の適用の有無)などをあげています。このほか、派遣労働者との区別として、「労働者派遣事業と請負により行われる事業の区分に関する基準」(通称「37号告示」)も存在しており、こちらもよく参照されます。判断の要素は類似していますが、こちらについては、受託者の独立性のほか、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと、逆にいえば、専門性のある業務を任されていることが考慮要素に加わっていることが特徴といえます。当職は、この判断基準については、判断要素が多すぎるがゆえに、実態判断を困難にしているという印象を抱いていますが、裁判例においては、これらの要素をふまえて総合考慮の結果として、直接雇用の労働者との比較なども参照しながら、事業主と評価できるか、労働者性を帯びているかを判断しています。判断するにあたってのイメージについて4判断基準に照らしても、なかなか個別の判断を行うことは困難ですが、イメージとしては、労働者とは異なり、個人が経費や損害発生時のリスクを負担している一方、拘束の程度が労働者と同等にまでおよんでいないことが必要という認識を持っていただくべきと考えています。常駐型の業務委託の場合、場所的な拘束は避けがたい状況であるところ、場所的な拘束が避けがたい理由として、例えば、作業対象のシステムが社内に存在しており、そこ以外での作業は不可能であることなどを明確にしておくべきと考えられます。また、それ以外の拘束の要素についての拘束力を弱めるために、時間的な拘束を緩和したり、直接の指揮命令を行ったりしないよう留意しておかなければ、労働者性を肯定される恐れがあります。報酬の定め方についても、時給に近いような定め方を採用することは、労務対償性が肯定されてしまう要素にもなるため、業務成果に対して支払いが行われるような内容にしておくことも重要であり、業務委託であることを維持するのであれば、源泉徴収や社会保険の加入などを行うべきではありません。そのほか、単純な肉体労働ではなく、専門性を有した代替性が低い業務であるかといった点も確認しておかれる方がよいと考えられます。エルダー53知っておきたい労働法AA&&Q

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