エルダー2019年7月号
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2019.754疲労とは生体アラーム疲労は、私たちに休息の必要性を伝え、過剰活動による疲ひ弊へいを防御するための重要な「生体警報(アラーム)」の一つです。筆者は、「痛み」、「発熱」、「疲労」を『三大生体アラーム機構(図表)』と位置づけていますが、「痛み」、「発熱」の原因物質や神経活動の問題(分子神経メカニズム)は解明が進んでいるのに対し、疲労の分子神経メカニズムに関しては、筆者らが本格的な研究に取り組む1992(平成4)年以前は、ほとんど断片的な研究しかありませんでした。すなわち、1980年代から日本体力医学会と連携して活躍していた「疲労研究会」は、登山やスポーツのトレーニングに関する事象を中心に扱い、また、日本産業衛生学会に属する「産業疲労研究会」は、主に産業疲労に関する労働環境や労働衛生といった観点で研究をしていましたが、人体の内部の機能、特に脳機能、免疫機能、内分泌代謝機能、生体調節機能などに直接迫る研究はほとんどありませんでした。一方、ストレス、睡眠、未病、抗加齢、介護・健康づくりなどは、それぞれ研究が進んできましたが、「疲労」に関わる研究は、そのなかでは決して中心テーマではありませんでした。「疲労・倦怠」は、医学・医療にとって重要な研究対象で第2回 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復疲労とは「生体アラーム装置」図表 三大生体アラーム機構出典:筆者作成さまざまな部位に感じる「痛み」、身体が発する危険信号ウイルスや細菌などの侵入に対する警告【作業能率の低下状態】「疲労」を感じていても、「痛み」や「発熱」ほど危機感を持たない人が多い⇨「疲労」は「痛み」ほど脅威を感じない⇨ 体温計のように疲労を客観的に評価する物差しがない疲労は「休め」を命じる生体アラーム痛み発熱疲労

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