エルダー2019年7月号
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2019.74キャリアコンサルタント、株式会社ウイル 代表取締役奥山 睦さん雇用されるのではない、起業の道を選択することにしたのです。 起業した後も、子どもが生まれると、家庭と仕事の両立で四苦八苦し、テレワークというスタイルを考え出しました。 そして2014(平成26)年、私は高血圧、糖尿病、脳梗塞を患い、1年間、仕事の時間を大幅にセーブせざるを得ない状況に陥りました。その時もテレワークで、徐々に働く時間を増やしていきました。かぎられた時間内で生産性を上げることに力を注いだ結果、2014年度の売上は過去3年間で最高の数値を達成することができました。 これは、顧客が当社を信頼して任せていただける状況や、スタッフおよび外注として常時仕事にあたってくれた人たちの理解と協力なくしては達成できませんでした。 いまでは体調もかなり回復しましたが、一昨年までは、介護のために充てる時間もどうしても必要でした。 私だけでなく、大変な事情を抱えながら働いている現役の方は少なくないと思います。私は自分自身の経験から、働く際に何の制約もない人を標準とするのではなく、一番弱い人に合わせて働き方を組み立て直すことの大切さを、強く発信していきたいと思っています。―健康は「生涯現役」の前提条件ですね。奥山 女性のキャリアアップを阻む「ガラスの天井」※3という言葉があります。それに対して、アメリカの社会学者が、男性には「ガラスの地下室」がある、と指摘しています。男性は収入と引き換えに危険な職種や長時間労働などの過酷な状況に押し込められている、というのです。男女の平均寿命の差にそれが現れています。アメリカでは1920(大正9)年にはその差はわずか1歳でしたが、いまは5歳に開きました。日本も1920年は1歳の差でしたが、いまは6歳に開いています。男性は特権的な性別として優遇されているといわれてきましたが、その生き方、働き方が幸せとはいえない場合もあるのです。―働き方の標準が変わると、評価のあり方をどう見直すべきでしょうか。奥山 何らかの制約でフルに働けない人は、定性的な評価と定量的な評価の二軸で考えるのがよいと思います。残業がほぼできない、出張が困難といった状況であっても、チームワークやルールの遵守、コミュニケーション能力といった数値化できないものは、会社にとって望ましい行動がとれているかどうかという観点からの定性的評価を行う。その一方で、売上金額や新規顧客の獲得数など、数値化できるものについての定量的評価も行う。この二軸で見ることによって、フルで働けないから評価が低くなり、賃金が低くなるという図式から脱することができます。年齢が上がるほど有病率も高くなる傾向があるので、こうした観点からも高齢者の公正な評価と待遇のあり方も見直すべきではないでしょうか。フルに働けない人を標準として勤務形態や評価を考える時代へ(聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博)※3 ガラスの天井……資質や成果にかかわらず、性別や人種などの理由で、組織内での昇進を阻む“見えない”障壁

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