エルダー2019年8月号
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2019.814給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれ、特に、「雇用確保措置企業」で顕著にみられる。また、「65歳以上の定年企業」と「雇用確保措置企業」の違いが顕著にあらわれているのが、「昇格(昇進)なし」の賃金制度、賞与・一時金制度および退職金(慰労金)制度であり、その背景には、「雇用確保措置企業」では高齢社員の雇用形態が非正規雇用であるため、昇格(昇進)、賞与・一時金および退職金(慰労金)の支給対象者にしていないことがある。以上にみるように、高齢社員の雇用管理(配置管理と労働時間管理)と、高齢社員の労働意欲の維持・向上をはかるための報酬管理の間には整合性が取れていない。配置管理においては役職者を除き、「現職継続」を原則とし、労働時間に関しては基本的にはフルタイム勤務が一般的であり、現役正社員と同様に、あるいはそれに近い形で活用することを基本に管理の仕組みが設計されている。しかしながら、報酬管理は報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれており、現役正社員とは異なる扱いをする、あるいは、それに近い仕組みがとられている。そのため、高齢社員のモチベーションの向上につながるような人事管理が構築されていないのが現状である。特に、その傾向は「雇用確保措置企業」で顕著にみられる。おわりに―高齢社員の納得性を高める人事管理を目ざして―4高齢社員に現役正社員と異なる人事管理を採用する場合には、高齢社員の活用方針を明確にすることと、それを高齢社員と現役正社員に浸透させるための支援策を実施することが、企業に強く求められる。「雇用確保措置企業」に代表されるような分離型の人事管理の場合には、定年(60歳)を契機にして現役時代とは異なる仕組みのもとで評価され、処遇されることになる。高齢社員には新しい人事管理に適合するために、働く意識と処遇に対する期待を転換することが求められる。転換が十分でないと労働意欲が低下する。そのため、分離型の人事管理をとる企業は統合型の人事管理以上に、高齢社員に「なぜ人事管理が変化するのか」を納得してもらうための方策を強く打ち出す必要がある。しかしながら、人事管理のすべての領域で高齢社員と現役正社員との継続性を維持することが、働き方のニーズが現役正社員とは異なる高齢社員の活用・処遇に際して、必ずしも合理的ではないとも考えられる。具体的に、どのような仕事に従事してもらうのか(例えば、現役時代に蓄積してきた専門能力等を活かして現役並に高度な仕事を担当してもらうのか、あるいは、高度な能力を必要としない定型的な業務を担当してもらうのか)、どの程度働いてもらうのか(働く時間・日数・働く場所についてどの程度の柔軟性を持たせるのか)という観点から検討する必要がある。その戦略に基づいて、高齢社員の納得性が高まる人事管理の整備を考える必要がある。︹参考資料︺● 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016)『高齢社員の人事管理と展望―生涯現役に向けた人事戦略と雇用管理の研究委員会報告書(平成27年度)』● 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』● 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書』 ︻注︼ 現役正社員と高齢社員の「決め方」の継続性を明らかにするには、両者間の人事管理制度上の差異を数量的に測定することが必要であり、現役正社員の人事管理がどの程度高齢社員に適用されているのかという観点から、「決め方」の継続尺度を開発した。具体的には、「現役正社員と高齢社員全員が対象である」(4点)、「現役正社員と一部の高齢社員が対象である」(3点)、「現役正社員と高齢社員は異なる制度である」(2点)、「高齢社員は対象ではない(現役正社員のみ対象である)」(1点)の4ランクからなる継続尺度とした。個々の制度がこの四つのランクのうちどれにあてはまるのかによって、右記のカッコ内で示した4点から1点の得点を与え「継続度」とした。継続度の得点が高いほど、現役正社員との継続性が強い統合型の人事管理、他方、低いほど現役正社員との継続性が弱い分離型の人事管理を採用していることを示している。

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