エルダー2019年8月号
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エルダー27FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫腸を元気にするコンブ日本人は海藻が大好き 日本人は、世界的にみても珍しいほど海藻が好きです。縄文時代以来の習慣で、コンブをはじめ、ワカメ、ノリ、モズクなど、ふだんの食事にも海藻がひんぱんに出てきます。コンブやノリのつくだ煮、とろろコンブ、焼きノリ、モズク酢、ワカメのみそ汁をはじめ、ほかにもたくさんあります。その結果、多くの日本人の腸に、海藻類を消化・分解する腸内細菌が棲すみつくようになり、日本人の長寿化との関係で、世界的に注目されています。海藻が腸に送られてくることは、腸内細菌にとっては大歓迎といってよいでしょう。なぜなら、コンブなどの海藻には、腸内細菌の好物である水溶性の食物繊維が豊富に含まれているからです。2010(平成22)年、フランスの研究チームが、日本人の腸内で海藻の食物繊維を消化している細菌を発見したことを発表しました。この細菌はアメリカ人の腸内にはなく、日本人の腸内ではほかの腸内細菌と共生しているそうです。コンブで「よろこぶ」世界で人気の高い和食の特徴の一つに、「出だ汁し」の文化があります。カツオ節とともに、その中心になってきたのがコンブです。コンブの主なうま味成分はグルタミン酸で、カツオ節はイノシン酸。この二つを合わせて出汁をとると、そのおいしさは何倍にもなることがわかっています。コンブでうま味を出す方法は、古くから行われ、江戸時代初期の『料理物語』という書には、コンブの用法が次のように記載されています。「汁、煮しめ、味噌漬け、だし、油揚げ、その他いろいろ」。現在とほとんど変わらない利用法です。お正月や祝いごとの料理にコンブが必ず用いられるのは、「よろこぶ」に通じる縁起のよさがありますが、「養よう老ろう昆こん布ぶ」ともいうように、「もっともっと、長生きしてください」という願いもこめられています。コンブのぬめりはフコイダンが主な成分で、活性酸素による酸化から細胞を守る抗酸化作用や、免疫力の強化などの働きがあり、コンブは古来からの長寿食といってよいでしょう。311

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