エルダー2019年8月号
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2019.844ことができるので、1年程度で習得できますし、高齢者や女性でも操作が可能です」建機の四方には小型カメラが設置され、360度監視によって人が近づくと油圧モーターやエンジンが停止するなど、セキュリティ機能は万全だ。同社がICT建機を最初に導入したのは2014年。東北地域では最も早かったという。だが、作業効率や安全性に優れているといっても価格は通常の建機の2倍以上だ。なぜ導入したのか。「団塊世代の社員が退職したことで技能の継承がむずかしくなったためです。建機のスキルは頭で覚えられるものではなく、五体を使って覚えるのでどうしても時間がかかります。技能の継承が追いつかない場合は生産性や収益性も低下します。さらに高齢者や経験不足の社員が増えることで現場での事故など災害リスクも高まります。ICT機械はたしかに高額ですが、にない手がいないという現実をカバーするために導入することにしたのです」(大槻社長)また、高い技能を持つ高齢者でも、事故を起こさないように気を張りつめて作業をするので精神的、肉体的負担も軽くはない。退職した高齢社員から「社長、若い人たちについていけなくなった。そろそろ卒業させてもらいたい」といわれたことも大槻社長の記憶にあった。「なぜなら、高齢社員にとっては、これまでつちかった自分の技能が否定されるようで、嫌なのです。自分のスキルが機械に負けてしまうというショックもあったのでしょう。彼らに対して私は、『あなたが機械を使わなくても構わない。でも、何十年の経験を持つあなたが前に進むことなく逃げてしまったら、若い人は決してついてこないよ』と話して納得してもらいました」こういえるのは、大槻社長自身が創業時からあらゆる建機を使いこなしてきた第一人者だったからでもある。だが、長年つちかったスキルを否定されることほど辛つらいものはない。建設業界にか長年の知識・技術・経験があるからこそ高齢社員のスキル習得は若手より早いにない手不足と技能の継承、高齢社員の負担の軽減という課題を解決するためとはいえ、巨額の投資に違いない。また、機械の性能がよくても動かすのは人である。ICT建機の技能習得も必要になる。当初は1台購入し、その後建機の数を増やしていったが、新しい建機を購入するごとに機能がバージョンアップする。機械が変わるたびに必要な技能を学ばなければならない。最初のICT建機を購入した2014年10月には、翌年の稼働に向けて勉強会をスタートした。メーカーの担当者が講師となり、同社の2階の会議室で社員を集めて学んだ。「参加者は、現場のオペレーターや技術管理者など12人。そのときは元請け企業の担当者も呼んで、一緒に勉強しました。当時元請け企業でICT建機を持つところはなく、発注する側も機械の機能を知る必要があったのです。座学だけではなく、元請けの現場を提供してもらい、機械を使った実践学習も行いました」だが、最初からすんなりと運んだわけではない。当初はベテランの高齢社員は面倒くさいといって学ぶことを嫌がったという。ICT建機のための勉強会の様子

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