エルダー2019年8月号
47/68

エルダー45ぎらず、どの産業でも起こり得ることだ。その〝精神的な壁〞を乗り越えるために、大槻社長は発破をかけ続けた。ベテラン社員の背中を押し、みんながやる気になると逆に成長も早かった。「やる気になれば、覚えるのにそれほど時間はかからないのです。なぜならベテラン社員は機械操作の長年の経験があるため、基礎力は80〜90%持っているのです。90%の知識と経験があればプラス10%の知識を学ぶだけでよい。逆に若い人は基礎力が10%しかなければ、残りの90%を学ばないといけません。ベテラン社員がいったん操作を覚え、ICT建機を使うと、だれもが快適で楽だと話しています」(大槻社長)ICT建機の導入で生産性が向上し従業員の休日確保に貢献2016年4月には、本社を会場に、外部の人を集めて100人規模のICT建機のセミナーを開催した。宮城県の職員をはじめ元請け業者や同業者が集まり、ICT建機の機能と操作の学習会を経て、同社の社員による機械の実演を披露した。宮城県内ではICT建機がまだどういうものか知らない人も多く、参加者は一様に驚きを隠せなかったという。もちろん機械操作は一度マスターすれば終わりというものではない。前述したように新たな機械を購入するたびに進化していく。大槻副社長は「最初に購入した機械も使えないわけではありませんが、機械の機能は毎年のように増えていきます。機械を動かす基本操作は変わりませんが、モニターを見ながらデータを呼び出し、操作をするので、モニター操作が理解できなければ、せっかくのICTがただの機械になってしまいます。その都度、操作をマスターしていく必要があるのです」と語る。2018年には3月から11月にかけて5台を導入しているが、その都度研修会を開催している。現在でも1カ月に1回は研修会を開催し、いまでは高齢社員を含む社員全員がICT建機を操作できるようになっている。また、高齢社員にかぎらず、だれもが覚えやすいように工夫もしている。「重視しているのは〝見える化〞の徹底です。必要な操作については必ず、写真を撮って丸印をつけ、『このボタンを押せばこうなる』といった説明を機械に貼りつけています。文字だけではわかりにくいので、イラストで説明するのもポイントです」(大槻副社長)ICT建機では、前述したように最初のデータ処理も重要になる。データ処理も含めて研修の指導役となっているのが40代の管理者たちだ。先ほどの覚えるための〝見える化〞も含めて、若手への指導や高齢社員への機械の説明などを行う。「ごく自然体でやっているので、教えてもらう高齢社員も自然体で学んでいますよ」(大槻社長)従来はスキルの高いベテラン社員が後輩に教えるのが一般的だったが、ICT建機導入後、ベテランを含めてみんなで学び教え合う風土が醸じょう成せいされている。もちろん効果はそれだけではない。若い世代も含めて技術を習得するスピードも早まり、現場作業の効率化が図れることで生産性も向上した。大槻社長は「例えば5カ月かかる工事が1カ月短縮できるなど生産性は確実に向上しています。もちろん機械ですべて対応できる工事だけではありませんし、道路に側溝を入れる細かい工事では、いまもベテランの熟練スキルが必要です」と語る。ICT建機の導入により同社の生産効率は高まり、建設業で一般的となっている「4週4休」からの改善が進み、現在では全社員が「4週8休」をほぼ達成しているという。ICTと高齢者の就業は一見、結びつかないように見えるが、最新のテクノロジーを駆使することによって職場環境の改善につながり、高齢者の働く意欲を向上させる。同社の取組みは、今後の高齢者就業のあり方を考えるうえで、大きなヒントを与えてくれる。高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る