エルダー2019年8月号
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く、人事考課における査定方法については、使用者の裁量により決定することが可能であり、その裁量の範囲も広いものと考えられています。また、いかなる査定方法を採用するかに加えて、当該査定における各労働者の評価方法についても、基本的には使用者の裁量により決定されることに委ゆだねられています。例えば、昇給の査定に関して、裁判例において、「昇給査定は、これまでの労働の対価を決定するものではなく、これからの労働に対する支払額を決定するものであること、給与を増額する方向での査定でありそれ自体において従業員に不利益を生じさせるものではないこと」をふまえて、賃金規程においては、人物・技能・勤務成績および社内の均衡などを考慮し、昇給資格および昇給額などの細目については、その都度定めると規定されていたことから、「従業員の給与を昇給させるか否かあるいはどの程度昇給させるかは使用者の自由裁量に属する事柄というべきである」と判断された事例があります(広島高裁平成13年5月23日判決、マナック事件控訴審)。昇給時における人事考課の査定について、争いになる事件はそれほど多くありませんが、この裁判例において示された傾向は、人事考課および査定を法的にどのように位置づけるのかについて基本的な考え方を示しているといえるでしょう。なお、賞与の査定についても、同事件では、「一般的に賞与が功労報償的意味を有していることからすると、賞与を支給するか否かあるいはどの程度の賞与を支給するか否かにつき使用者は裁量権を有するというべき」と判断されており、使用者が広い裁量を有するという点は共通しています。違法となる基準について3使用者に広い裁量を認めたからといって、まったく違法となる余地がないわけではありません。実際、前述したマナック事件においては、昇給の査定および賞与の査定に関して、裁量の範囲を逸脱して違法であると判断した部分もあります。まず、評価対象とする期間が定められている場合は、対象とする期間外の出来事を考慮することは、裁量権を逸脱したものと評価されることにつながります。マナック事件においては、評価対象期間外の出来事を考慮していたと判断された結果、裁量権の逸脱があると認定されました。次に、評価項目を定めている場合に、当該評価項目以外の事項を基準に評価を下げたりすることも、裁量の範囲を逸脱することがあります。例えば、直属の上司の評価を大幅に下げる評価を行った行為が、評価対象の労働者の態度に好感を持てていなかったことが原因であるとされ、裁量権の逸脱を認定された事例があります(東京高裁平成23年12月27日判決)。評価項目の設定は、可能なかぎり客観的かつ公平な評価を目的として設定されているはずですので、これを主観によって恣し意い的に運用する場合には、本来の人事考課の目的とは異なる不当な動機や目的をもって査定を実施したものとして、違法と評価されることがあるということです。これら以外には、法律が不当な差別的取扱いを禁止している場合に、違法と評価されることがあります。例えば、同一の成果や人事考課を受けている労働者について、男女の差異を理由として、昇給額に差を設けることは禁止されています(男女雇用機会均等法第6条第1号参照)。本件における対応について4不服を申し出ている労働者が、査定結果に対していかなる理由や根拠に基づいて査定のやり直しを求めているのかを把握する必要があります。一方で、評価を行った直属の上司などに対しても、評価の根拠を確認したうえで、会社が定めた評価方法に則して実施されているかを確認しておくべきでしょう。評価の前提となる事実関係に誤りがある場合や、上司が恣意的に過小評価している場合には、違法となるおそれがありますので、査エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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