エルダー2019年8月号
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賃金全額払いの原則1労働基準法第24条は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定め、ただし、「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる」と定めています。この規定は、賃金支払い方法に関する原則を定めており、本件では、「賃金全額払いの原則」からして、賃金からの控除が許容されるかが問題となります。「賃金全額払いの原則」は、労働者に確実に賃金を受領させ、その経済生活をおびやかすことのないように保護することを目的としており、使用者による労働者の搾取を防止するために非常に重要な原則として位置づけられています。本件においては、ただし書きが定めるような労使協定などではなく、個別の労働者との対応が問題となるため、ただし書き以外の例外が許されるのかが問題となります。調整的相殺について2通勤手当の過払い分を回収することについては、通勤手当を1カ月分ずつ払っている場合であっても、退職日を通勤手当の期間とうまく調整しないかぎりは、少なからず発生することになります。最高裁昭和31年11月2日判決(関西精機事件)は、賃金全額払いの原則に照らして、「賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺することも許されない」と判断しており、原則として、使用者の一方的な意思によって相殺を行うことは許されません。とはいえ、いかなる場合においても賃金からの控除が許容されないとなると、実務上、賃金については、「全額払いの原則」が定められており、賃金からの控除についてはこれに違反するおそれがあります。ただし、一定の範囲で調整的な理由で行われる場合には許容される場合もあります。損害賠償相当額を賃金から控除することは基本的には許容されませんが、労働者の自由な意思に基づく合意にしたがう場合には、許される場合があります。A定結果を是正すべき場合もあります。上司が評価を恣意的に行っているか否かを把握するためには、不服を申し出た労働者以外の労働者、特に同程度の成果と見受けられる労働者との比較を行い、合理的に評価の相違点を説明できるかを検証する方法が考えられます。2019.848従業員の退職後、通勤手当の過払い分を賃金から相殺することはできるか当社は、6カ月分の定期券相当額を通勤手当として支給しているのですが、退職する際に、過払いの通勤手当が生じることがあります。退職後に過払い分を返還してもらおうとしても、連絡が取りづらくなったり、支払意思がなくなってしまったりするため、最終の賃金計算の際に控除しようと思っていますが、何か問題はあるのでしょうか。また、労働者の不注意による事故によって、会社に損害が生じたため、損害を賠償してもらう予定なのですが、これを賃金から控除してもよいのでしょうか。Q2

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