エルダー2019年8月号
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2019.850疲労のメカニズム運動性の疲労であれ、精神性の疲労であれ、疲労には根本的に「活性酸素」(酸素ラジカル)がかかわっています。ほとんどの生命体は、酸素を使ってエネルギーをつくっていて、その過程で活性酸素が副産物として発生するからです。通常、活性酸素は細胞のなかにある、抗酸化物質によって消去され、細胞は健康を保っています。ところが、オーバーワークをすると活性酸素の発生量が多くなり、かぎりある抗酸化物質が減少すると、細胞のなかにある重要な部品である「タンパク質」などが活性酸素によって酸化、つまりサビついてしまいます。このときに身体が若く、エネルギーを十分に生み出すことができれば、そのエネルギーを使ってサビついた部品を修理したり、新しい部品に置き換えることができます。しかし、加齢にともなう身体の変化やオーバーワークが連続すると、サビついた部品を修復するエネルギーが不足することになります。すると、サビついた部品が蓄積されて細胞の調子が悪くなります。これが「細胞傷害」というもので、全身を巡る免疫細胞がこの細胞傷害を見つけ出し、脳にその場所と程度を知らせます。このようにして、ヒトは疲労を感じているのです。これが疲労のおおまかなメカニズムです。疲労を検知する機能の破は綻たんヒトが働きすぎて疲労を感じた場合、意欲や情動にかかわっている脳の部位が活発に働き始めて「休みなさい」という警告を発していると考えられています。このような疲労を検知する機能によって、普通は睡眠をとったり、休息をとったりすることになります。ところが、この警告を無視して、無理して働き続けると、意欲や情動にかかわる脳の部位が「疲れのSOS信号」を押さえ込んでしまいます。と同時に、交感神経が刺激され、癒やしをつかさどる副交感神経の働きが落ちて過緊張状態が継続するので、疲労していても休息をとれない状態、ときには不眠状態にさえ陥るおそれもあるのです。ヒトは往々にして働きすぎてしまうことがあります。特に職場の管理監督者の方々には、働きすぎによってせっかくの疲労の検知機能が破綻してしまうと、慢性疲労や過労死につながる可能性があることを理解していただく必要があると思います。働き方改革の実現が求められる昨今、疲労のメカニズムを理解することによって、働きすぎがもたらす危険性をよりよく知っておく必要があるといえるでしょう。国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復疲労のメカニズムと現代の疲労の特徴と課題第3回

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