エルダー2019年8月号
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エルダー51現代における疲労の特徴と課題現代人の生活は、「忙しい」、「やることが山積みでエンドレスだ」、「気の休まるときがない」という状況にあります。仕事を優先するあまり、休憩、息抜き、癒やし、娯楽、そして睡眠というものをないがしろにしている読者も少なくないのではないでしょうか。特に働く人にとっては、このような「切迫感」が大きな課題となっているといえるでしょう。切迫感があるということは、自分のペースで働くことはできないということになるので、たとえ疲労を感じたとしても、タイミングよく休息を取ることができないのです。特に近年では、スマートフォンの普及によって間断なく情報を入手したり、リラックスするべき時間にも、ついゲームに熱中してしまったり、何かにつけて瞬時に対応するための集中力を維持し続けてしまっている状況が見受けられます。このように現代の生活における疲労の特徴を考えると、例えば、仕事中における休憩のとり方ひとつにしても、それぞれの立場で工夫を凝らして望ましい休憩の取り方の方向性を考え、それを実現していく必要があるでしょう。最近、社員の創造性を重視している企業のなかには、仕事中に休憩の時間をとったりスポーツを楽しむなど遊びの要素を上手に取り入れているところも増えてきています。また、疲労回復のために必要な睡眠時間を十分に確保するために、「時差出勤」や「テレワーク」を導入している企業も増えてきています。自力でのコントロールが重要仕事の場面でも、学びの場面でも、自身で主体的に計画して主体的にコントロールできる取組みに関しては、疲れを感じるケースは少ないといえます。これは、休憩をうまくはさんだり、気分転換をしたり、余裕あるスケジュールを構築することができるからだと思われます。疲労の効果的な対策としては、この点が最も重要なのかもしれません。ですから他人が決めた仕事のスケジュールであっても、いったんは自分が立てたスケジュールとして受け止めて、十分に咀そ嚼しゃくしておけば、先々に起きる場面を想定しながら動くことができます。「疲れにくさ」のキーワードは、このような「事前シミュレーション」や「リスク管理」といえそうです。その一方で、疲労からの回復にはやはり睡眠が重要であり、自身の日にち内ないリズム※とうまく合わせて睡眠時間を取ることが最も大切です。加えて、睡眠にかかわる環境や寝具、そして「睡眠時無呼吸症候群対策」も重要になります。疲労への適切な対策を取るためには、疲労の度合いを知ることも大切です。そこで次回は、「疲労度の計測方法」をご紹介します。※ 日内リズム……約24時間を周期として変化する肉体的・精神的な変化わたなべ・やすよし京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。

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