エルダー2019年8月号
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2019.862渡邊さんは根っからの職人肌。2014(平成26)年に都知事から表彰された、製本技能者初の東京マイスター※1でもある。同社は1956(昭和31)年に創業。当時から学校の卒業アルバムを毎年何百校と手がけてきた。「昔の卒業アルバムは大やまと和綴とじといって、紐で綴じていたのです。表紙を布でくるみ、綿入れ加工もしていました」しかし、特殊な作業が多いので一点一点手間がかかり、ビジネスとしては利益をあげにくい。採算が合わず、こうした和本を手がける会社は全国的にも減っていった。さらに、バブル崩壊後の不況で同社も赤字が続いた。当時、社長として指揮を執っていた渡邊さんは改革を決意する。「こちらから営業に出向くのではなく、お客さまが並んででも注文したくなる会社にしよう、と考えました」応接室を減らし、代わりにこれまで製本した見本を壁一面の棚にぎっしりと並べた。数種類の見本を営業が持って何度もうかがうより、ここで手に取って開いてもらうほうが、検討も決断も話が早い。現代のビジネスではスピードが大きな価値を持つ。しかし、無理に縮めた納期ではたしかな製本はできない。そこで、営業努力として心がけているのが見積もりの早さだ。印刷会社からのむずかしい依頼に即日で見積書を出すと驚かれ、さらにその先にいるお客さまにも喜ばれる。そうして、お客さまのクチコミや紹介で顧客が増えたのである。手になじむ、開きやすさ品質に加え、数をこなせるのも大事見ためや仕上げの美しさのほか、開きやすさ、扱いやすさといった細かな相談にも耳を傾ける。「和本の手仕事の技術と、洋本の機械化の技術。その両方がある写真集の製本。ページ順にまとめられた紙の束に糸を通していく糸かがり機を使うが、できる製本所は少なくなっている。左は三男で製造係長の悠ゆうさん「開きがよい、持った感じがよいなどの感覚は、気づくしかない。だから『この本は、粋いきだね』などと、若い人に話しかけます」※1 マイスターとはドイツ語で名人、親方、師匠などの意味。東京都は極めて優れた技能を持ち、ほかの技能者の模範と認められる各技術分野の第一人者を、東京都優秀技能者「東京マイスター」として表彰している

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