エルダー2019年9月号
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2019.924ならないことが多く、高齢者には無理ではないかと思われていました。しかし、実際に高齢者に店員として働いてもらうと、ほぼ問題なく対応できることがわかってきました。なかには、70歳を超えた人も活躍しており、地元福岡のニュース番組でくり返し取り上げられるようになっています。「コンビニの店員は若者の仕事」という既成概念を打ち砕き、雇用する側とされる側の双方が意識改革をした結果として、高齢者の活躍の場が広がったといえます。私たちの周りには、「間違った思い込み」を解き放つことで、高齢者が活躍できる場がもっとたくさんあるのではないかと思います。「センター」スタッフの地道な対応JR博多駅の近くに開設された「センター」は、その後、北九州、久く留る米め、筑ちく豊ほうにも広がり、現在、福岡県内で四つの拠点が企業と求職者の仲介を行っています。「センター」の活動を見ていて、とても大切だと感じるのはスタッフのきめ細かな対応です。まず、求人開拓です。県内の企業をまわって、高齢者の労働力としての可能性を説明し、「高齢者を雇ってもいいよ」という会社を掘り起こしています。雇う側には、先に述べたような「思い込み」があります。「この仕事は体力を必要とするので高齢者には無理だろう」とか「わが社の仕事では、新しいことをたくさん覚えてもらわなければならないので高齢者には向いていない」と決めつけてしまっている企業は少なくありません。「一人で対応するのがむずかしいなら、二人で分担して対応することを考えてはどうでしょうか」、「高齢者のなかにも柔軟に多くのことを学んでいる人はたくさんいて、現実にこのような事例がありますよ」といった話をして、企業側の凝り固まった思い込みを解きほぐしていきます。すると、「では、試しに雇ってみましょう」ということになり、結果として、高齢者を雇用してよかったという企業が増えています。もう一つの大切な活動は、求職者との対話です。「センター」に登録した人の希望をじっくり聴くことから始まります。働くことに何を求めているのか、どれくらいの収入を得たいのか、勤務地はどこがよいのか、仕事内容は、健康状態はなど、仕事を求めてきた人のホンネを引き出していきます。楽な仕事で給料をもらいたいと思う人もいます。でも、そのような仕事は、まずありません。仕事をしてお金をもらうことには、ある種の厳しさがともないます。しかし、仕事をしていると仲間ができ、ほかの人から頼りにされ、「ありがとう」といってもらえます。その喜びは、何物にも代えがたい価値があります。「センター」のスタッフは、仕事をすることの素晴らしさを語り、企業側の求めに合わせて、自分の希望を調整することをうながします。この地道な努力が、企業と求職者のマッチング件数を高めているといえます。全国への広がり福岡県で始まった「70歳現役社会」づくりの取組みは、ほかの九州5県と沖縄県、山口県へと広がりをみせています。九州・山口各県および経済団体などで構成する「九州・山口70歳現役社会推進協議会」において、九州・山口一帯での施策や各県の実情をふまえた「70歳現役社会の実現」に向けた活動が展開されています。福岡県の取組みは、国も注目しており、平成25年版『高齢社会白書』に高齢者雇用の新たな試みとして取り上げられました。地方の意欲的な取組みが全国に広がっていく好事例として、これからも「センター」の活動に注目していきたいと思います。

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