エルダー2019年9月号
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エルダー25FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫「香りマツタケ、味シメジ」の秋縄文人もキノコ好き日本の里山はキノコの宝庫です。山と里との境界線には、日当たりのよいなだらかな斜面が広がり、ナラやクヌギ、あるいは栗の木などの雑木林があります。山の木々が色づくころになると、栗やドングリ、クルミ、山イモ、アケビ、山ブドウなどがたくさん採れます。里山から、さらに奥に入って行くと、大木、巨木が立ちふさがっていて薄暗くなり、天狗さまや悪いキツネなどが棲すんでいそうな、ちょっと恐ろしい本格的な山になります。また、秋になると、雑木林や松林の根元は大にぎわい。とんがり帽子や丸い笠のような帽子など、思い思いの帽子をかぶったキノコたちが、落ち葉を押しのけて、いっせいに顔を出します。いまから4千年ほど前の縄文遺跡から、キノコの形をした粘土製の遺物がたくさん発見されており、縄文人も味のよいキノコが大好物だったようです。シメジはうま味成分の宝庫キノコの一番人気は、昔もいまもマツタケ。『万葉集』に次の作品があります。高松の この峰も狭せに 笠立ててみち盛さかりたる 秋の香かのよさ「高松の、この山も狭くなるほど笠を立てて、満ちあふれているマツタケの香りの何とよいことよ」という意味で、「秋の香」とは、マツタケのこと。一方、香りのマツタケに対して、味でアピールしているのがシメジ。ほら、いうじゃありませんか、「香りマツタケ、味シメジ」。たしかに、シメジの天然物の場合、うま味成分のグルタミン酸やグアニル酸、アスパラギン酸などが豊富ですから、キノコのなかではトップクラスの「味」といってよいでしょう。スーパーなどに並んでいる人工栽培のシメジでも、肉質、食感、歯ごたえ、それにうま味成分も、天然物とほとんど変わらない品質になっています。クセのない味で、どんな料理にもよく合うところから広く用いられていますが、特に炊き込みご飯が絶品。低カロリーでがん予防効果が期待されることも、注目されています。312※ 今月号の「リーダーズトーク」(1頁)では、永山氏へのインタビュー記事を掲載しています。ぜひ、ご覧ください

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