エルダー2019年9月号
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高齢者に聞く第 回一般財団法人工業所有権協力センター調査員松まつ倉くら正まさ雄おさん65 松倉正雄さん(68歳)が自らの技術や経験を活かせる職場で第二の人生を歩き始めて16年が過ぎた。高度な専門知識を有する技術者たちと切せっ磋さ琢たく磨ましあう日々は気概にあふれている。充実のときを送る松倉さんが生涯現役の明日を語る。2019.934研究に没頭した青春時代私は東京都練馬区の出身です。大学まで石しゃく神じ井い公園のそばで過ごしました。1974(昭和49)年に大学を卒業すると、「三さん公こう社しゃ五ご現げん業ぎょう」※1の一つ、日本専売公社に就職しました。その後、公社のたばこ事業は日本たばこ産業株式会社に引き継がれ、さらにJTと呼ばれるようになりました。大学で理工学部応用化学科を専攻していましたので、入社してからすぐに公社の中央研究所に配属されました。応用化学を専攻したのは、受験勉強をするなかで、化学の不思議さに魅了されていたからだと思います。当時、国内ではさまざまな公害問題がクローズアップされ始めていました。公社の研究所でも自社工場における排水処理や排気処理の研究・開発を重点的に行っていました。私もそこに加わったのですが、実際に研究を進めるうちに、どうしても必要な資格があり、まず二つの資格取得に挑戦しました。一つは「公害防止管理者」です。この資格は大気汚染や水質汚濁、騒音・振動などの公害を防止するために必要なもので、私はそのなかでも水質汚濁に関する「水質一種」の資格を目ざしました。もう一つは工場から出される排水や煤ばい煙えんなどを測定し計量管理する「環境計量士」という資格です。難易度の高い資格でしたが、何より体力がありましたから、日々の業務をこなしながら二つの資格を取得することができました。このとき猛勉強したことや現場での実践が定年後の新しい職場で大いに活かされました。若いときのさまざまな経験が人生を豊かにすると、いまあらためて思います。松倉さんの挑戦はさらに続く。仕事に必要な資格取得が一段落すると、今度は臭いの研究に着手し、論文を完成させて農学博士の学位を手にする。働きながらの快挙であった。IPCCとの出会い公害問題が落ち着いてくると、今度は分煙設備を担当することになりました。建物だけでなく、電車や飛行機の分煙システムにも取り組みました。短期間でしたが、某鉄道路線の特急列車で、気流をコントロールして分煙を試みた経験もあります。いま思えば、退職するまで研究と開発に没頭させてもらえたのは幸せでした。最後の3年間は工場長を拝命しますが、自分が開発した排気脱臭設備が実際に工場で役立っているのを目の当たりにして感激したことをいまも覚えています。当時の管理職の規定で、52歳になったとき、IPCC(Industrial Property Cooperation Center一般財団法人 工業所有権協力セン※1 三公社五現業…… 国が事業の経営に関わっていた、日本国有鉄道・日本専売公社・日本電信電話公社の三公社と、郵政・造幣・印刷・国有林野・アルコール専売の五事業の総称

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