エルダー2019年9月号
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2019.92食文化史研究家 永山久夫さんいていたとうかがえるのです。『万葉集』にたくさん残っている和歌を紐ひも解くと、万葉仮名という文字を通じて自分たちの感性を表現し、驚くほど生命力を豊かに書き記し、人生を謳おう歌かしている。これは、令和という新しい時代、人生100年時代を活き活きと働き、暮らしていこうとする私たちの生き方、暮らし方、食べ方に通じるものがあると思っています。ー具体的には、どのような食べ方、暮らし方をすると、健康で長生きができるのでしょうか。永山 万葉時代から現代につながる食べ方としては、まず、「季節のものを食べている」ことがあげられます。万葉時代は冷蔵庫などない時代ですから、旬しゅんのものしか食べられない。魚や野菜、果物、木の実など、その季節に採れたものを、そのまま口にしていました。旬のものというのは、新鮮でおいしく、さらに栄養価が高いのが特長です。そういう新鮮ー永山先生は長年にわたって食文化史、とりわけ長寿食、長寿者のライフスタイルを研究されてきました。平成30年度には、その功績によって「文化庁長官表彰」を受けられましたが、ご感想はいかがでしょうか。永山 長年の研究が認められ、いままでにない責任感、使命感をもつようになりました。もっと深く研究し、裏づけを明らかにしていきたいという、引き締まった気持ちです。そして、ますます長寿食の研究と普及に力を入れなければ、と感じています。ー永山先生は、改元によってにわかに注目されるようになった『万葉集』の時代の食生活にもたいへんお詳しいですね。永山 「令和」という新しい時代が始まりましたが、これは、私が長年研究してきた「万まん葉よう時代」に通じるものがあります。個人的には、「第二の万葉時代」を迎えていると思っているんです。というのも、万葉時代の人々は食べ物を通じて老化を防ぎ、活き活きと働な「よい成分のもの」を摂ることで生命を長らえ、老化を遅らせ、恋をして活き活きと暮らしてきたわけです。なかでも、生魚については、「膾なます」といって、魚を細かく切り刻んだり、薄く切ったりして、酢につけて食べる調理法が、日本最古の和食といわれています。『万葉集』のなかにも、 ひしおすに ひるつきかてて  鯛願う われにな見せそ なぎのあつもの という作品があります。これは、「ひしおす(醤酢)に、ひる(蒜=ノビル)を混ぜて鯛を食べたいと思っているのに、私に見せるな、なぎ(水葱=水アオイ)のあつもの(汁)」という意味で、現代で考えると「鯛を二杯酢とニンニクのタレで食べたいのに、水アオイの汁物のようなおいしくないものを持ってくるな」というような意味になるでしょうか。旬のものである生魚を、できるだけおいしく食べたいという料理法と食への好奇心が垣間見られる歌となっています。現代でも、「旬のものをおいしく食べる」ことが、健康食である和食の原点、といっていいでしょう。ー本誌で長年、「日本史にみる長寿食」(25頁)をご執筆いただいています。長寿食、健康食といいますが、高齢者がとくに気をつけ万葉時代から続く日本の伝統的な食事長寿の秘訣は〝生命力を高める〞食べ方

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