エルダー2019年9月号
45/68

エルダー43また、講義以外に2泊3日の清きよ里さと合同ゼミ合宿、クリスマスパーティー、修了パーティーなどのイベントがあるが、こうした課外活動は受講生たちが委員会を組織し、運営を行っている。セカンドステージ大学の情報発信の機関誌も受講生で組織する「ニューズレター編集委員会」が取材・執筆依頼・レイアウトまでこなしている。シニア世代の「学び直し」は企業の人材育成のヒントになるこのように大きく三つの特徴を持つ同大の教育システムは修了生にどのような影響を与えているのか、佐藤さんに話を聞いた。一級建築士の資格を持つ佐藤さんは勤務先の建築設計事務所の代表を65歳で退き、66歳で同大に入学した。入学の動機は「これまでの仕事中心の人生を切り替えようと、仕事のウエイトを抑えつつ学び直そうと思ったのです。もう一つは地元の自治会活動を積極的にやりたいと考えていたので、この大学で社会貢献や地域貢献活動について学べると思いました」という。大学の講義はどれもおもしろく、市民活動について語る教員の熱意にも圧倒された。そして前述したように本科の修了後、専攻科に進み、2本の修了論文を書き上げた。この2年間に得られたものは何か。佐藤さんはこう語る。「これまで仕事ばかりやってきた人生に比べ、本当に豊かな時間を過ごすことができましたし、何より学ぶ姿勢を身につけたことが大きな成果です。いまも自身で見つけたテーマについていろいろな本を読むなどして追いかけています。もう一つ自分にとって大きかったのはゼミの仲間と出会えたことです。本科のゼミ員は10人ですが、専攻科が終わったいまでも自主的な研究会を続けています。昨年の研究会のテーマは『色』ですが、仲間がそれぞれ色に関する研究結果を発表し、みんなで議論します。こんな研究ができる仲間はなかなか見つけられるものではありませんし、私にとっては人生の宝です。もちろん研究会後の懇親会も楽しいですが、この仲間と巡り会い、いまも交流が続いており、本当によかったと思っています」ゼミの仲間には、専攻科を修了後に大学院に進んだ人、別の大学の通信課程で勉強している人、通訳案内士の資格を取得し、美術館で働いている人、NPO法人の立上げに奔走している人など多様だ。佐藤氏も仕事を継続しつつ、土・日は自治会活動に参加、その一方、個人では「マンションの老朽化」をテーマに研究活動を続けている。立教セカンドステージ大学の学び直しの取組みは、少なくとも二つの大きな効果を発揮しているように思う。一つめは教育学者の天野郁いく夫お東京大学名誉教授が「学ぶことにおいて最も身につくのは自ら教えることだ」といっているが、講義を聴く、本を読む以上に自分の意見や研究した成果を発表する機会が随所に設けられていることだ。ゼミ活動における研究テーマの発表などにおいて、考え方の違う他者の理解と共感を得るには、あらゆる検証に耐えうる、人一倍の準備作業と理論の体系化など、テーマの深掘りが求められる。さらに第三者の示唆を受けることで知への欲求をかきたてられ、知性が研ぎ澄まされていくのだと思う。二つめは、いま企業が社員に求めている「変化対応行動」※3を養ううえで最適な環境を提供している点だ。「知的好奇心」、「チャレンジ力」、「学習習慣」の三つの要素は、変化対応行動に有効であるという研究結果がある(エルダー2019年4月号8頁参照)。そしてこの三つの能力は同質的価値観を共有する社内より、社外の異なる価値観の人と積極的に交流することで磨かれることも明らかになっている。まさに同大の取組みにより、過去の経歴や職歴・社内での役割が異なる人たちがともに学び合うことで知的好奇心や学習習慣が高まることが実証されている。同大の取組みは企業のキャリア教育においても重要な示唆を与えるものとなっている。※3 変化対応行動…… 社会の変化に適切に対応していくこと。「知的好奇心」、「チャレンジ力」、「学習能力」の三つが重要となる(本誌2019年4月号特集「佐藤博樹教授特別インタビュー」参照)高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る