エルダー2019年9月号
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対応に困ることになるでしょう。そこで、出張に関して、どのように処理していくことが適切か整理しておきたいと思います。出張ということは、事業場の外に出ていることになるでしょう。したがって、事業場外労働のみなし労働時間制を採用している場合には、これが適用されるか検討すべきでしょう。事業場外みなし労働時間制※2については、就業規則の規定を定めておくことで適用することが可能です。しかしながら、通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、当該必要な時間を労働時間として算定しなければなりません。とすると、通常必要となる時間のうちに、出張による移動時間が含まれるのか否かによっても計算方法が変わることになりそうです。したがって、結局のところ、出張中の移動などについて、基本的にどのように考えるべきかについて整理しておかなければ、労働時間の管理が十分に行えないことにつながります。出張に関する基本的な考え方2一般的に、出張に関しては、通勤や直行直帰などと類似する移動時間と評価され、例えば、横浜地裁川崎支部昭和49年1月26日決定(日本工業検査事件)においては、「出張の際※2 事業場外みなし労働時間制…… 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。(労働基準法第38条の2)に往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ないと解するのが相当」と判断されています。基本的な考え方としては、これにしたがった解釈は可能と考えられますが、ただし、指揮命令下に置いていない場合という留保がつくと考えるべきでしょう。例えば、昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号においては、「出張中の休日は、その日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としており、休日中の具体的な業務命令が行われていないかぎりは、出張中の休日は労働時間として扱う必要がないことを示しています。このような解釈を前提にすると、出張中の移動時間や休日については、使用者からの指揮命令がないかぎりは、労働時間としては扱う必要はないという整理になると考えられます。指揮命令下につき具体的に判断している裁判例として、東京地裁平成24年7月27日(ロア・アドバタイジング事件)があります。当該事例は、17回にわたる出張につき、各出張の状況をふまえて、個別に労働時間の該当性を判断しており、移動手段などが指定され、行動の制約があったのみでは、たとえ、上司の同行があったとしても別段の用務を命じられていないかぎりは、出張を労働時間とは認めていない一方で、納品物の運搬それ自体を目的としており、無事に支障なく目的地まで運び込むことが目的となっていた場合や、ツアー参加者の引率業務に従事していた時間については移動時間も業務遂行中の時間であるとして指揮命令下におかれたものと評価しています。しかしながら、結論においては、事業場外労働に該当することを認め、ほとんどの出張について、通常必要な時間を超えたとは認めることなく、所定労働時間働いたものとみなすという結論になっています。出張日当の支給について3基本的な考え方に則した場合、出張自体は労働時間に該当しないことも多く、時間外労働の割増賃金の支給対象とはなりません。しかしながら、労働時間ではないとはいえ、長時間の拘束になることは否定しがたいため、多くの会社では、出張日当などを支給することで、労働者に対するケアを行っています。出張時間については、状況によっては労働時間になることをふまえると、出張日当などについても、時間外割増賃金の前払い(固定時間外手当)として支給しておくことも検討に値するのではないかと考えられます。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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