エルダー2019年9月号
50/68

2019.948 前回は疲労のメカニズム、そして現代の疲労の特徴と課題をご紹介しました。こうした疲労に対して、より望ましい疲労回復法や過労の予防法を開発していくためには、疲労の度合いを数値化して把握することが重要になります。そこで今回は、自分自身で感じる「主観的疲労度」と、他のヒトの疲労度と比較することができる「客観的疲労度」を計測し、数値化する方法を紹介します。疲労度を計るためには、疲労の主観的指標と客観的指標を合わせた総合的な評価が重要だとされています。多数の健康なヒト※1で、この両方の計測を行うと、主観的疲労の度合いと客観的疲労の度合いにはかなりの相関がある(一致性が高い)ことがわかりました。裏返して話すと、「健康」ということは、自分の心身で起こっていることがきちんと感知できているということだろうと推測できます。疲労の客観的指標 疲労の客観的な指標に関しては、バイオマーカー(人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標)に関する研究が行われてきました。疲労の指標としてのバイオマーカーを大別すると、「生理学的バイオマーカー」と「生化学・免疫学的バイオマーカー」にわけることができます。 生理学的バイオマーカーは、「①脳機能」、「②循環動態・自律神経機能」、「③行動量・睡眠態様」の三つにわけることができます。「①脳機能」は、疲労にともなって注意力や集中力の低下が起こり、エラーが増加することに着目した指標です。コンピュータ上で行う5分から10分の作業における反応時間の遅れやエラー回数の増加を測定することで疲労度を把握します。「②循環動態・自律神経機能」は、疲労によって、リラックスや癒しをもたらす副交感神経の機能が低下し、緊張や活動をうながす交感神経が優位になることに着目したものです。心電図を用いた心拍変動解析によって疲労度を把握します。現在、最も信頼性が高いとされているのがこの指標です。「③行動量・睡眠態様」は、腕時計型の活動量計によって数日から週単位の終日の活動量を記録して、覚醒時の活動量や睡眠時間、睡眠パターン、中途覚醒状況などを把握することで疲労度を計ります。慢性疲労時には、覚醒時の活動量が低下するといわれています。 一方、生化学・免疫学的バイオマーカーは、血液や唾液、尿などを採取し、疲労によるパフォーマンスの低下と連動すると思われる物質の変動を検知して疲労度を計ります。疲労の主観的指標 疲労の主観的な指標に関しては、英国で開発さ※1 健康なヒト…… WHO憲章では「健康」を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義しているが、本稿では「病気の診断がついていない人、および診断は未定でも本人や周囲の人が明らかな病気の症状を認めていない人」を健康なヒトとした第4回疲労の度合いの計り方国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る