エルダー2019年9月号
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2019.962横向き溶接の練習を見守る石川さん(左)。電流と電圧のバランスに留意し、手持ちのトーチから出てくる溶接棒(ワイヤー)をあてなければならない作業だがいる。石川信幸さんだ。18歳で、当時の国鉄に入職し、人気の「ガス溶接」を志した。溶接の世界には未経験で飛び込み、経験を重ねた。電流をかけて電極間の放電で高温にする「アーク溶接」や、溶接するための金属ワイヤーを自動で送り出すトーチを使う「半自動アーク溶接」、さらに、アルミ溶接、ステンレス溶接といった、車両の修繕に必要な多くの溶接資格を習得した。そして、2018(平成30)年に東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞※3を受賞。超一流の溶接工である。奥が深い、溶接の世界両利きがなぜ多い?溶接の技術は奥が深い。意外だが溶接工には結構な割合で両りょう利ききがいるという。「私は右利きですが、左でも感覚的に同じことができるようにしました。溶接に使うトーチを、左右で同じように使えれば、安全かつ確実に素早い作業が可能です。溶接ではよくあることです」手作業であり、溶接の向きや姿勢で難易度は変わる。素材や方法も多彩だ。それでも安定した作業品質が必須であり、資格取得者だけに溶接の仕事が許可される。取材中に台車のブレーキテコ受に補強板を溶接していた若い社員も、石川さんから指導を受けて努力を重ね、資格を得た一人だ。溶接に向いているのは、意外にも不器用な人だと石川さんはいう。「溶接は一生懸命練習して徐々にうまくなります。女性もていねいさをプラスにできます。ただ、技術を全部覚えるには結構な年数が必要。最低で3~4年、しっかり覚えるには10年かかります」つまり、容易には人材が養成できない。これからも安全に鉄道の車両を走らせていくには、将来の人材も育てなければならない。「大事なことは、まず『確実さ』。そして『ビード(溶接痕)』がきれいかどうか。ビードを見れば、溶接の良し悪しがわかります」※3 石川さんは、「電気溶接・ガス溶接をはじめとする鉄道車両組立・修理に関する技能に優れ、車両の新造に加え、修繕や改造も担当するとともに、多くの改善活動を行い車両メンテナンス効率の向上、安全安定輸送の確保に寄与している。JIS溶接検定の指導員として、毎年約50名を合格に導き、後進技能者の育成に貢献している」として表彰された

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