エルダー2019年9月号
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エルダー63いか」と、前例などなくても頼まれる。それに応える。必要なものは何でもつくる。そうでなくては現場が円滑に回っていかない。もう一つは「良心で溶接する」という先輩からの教えである。「溶接が2層3層と重なると後から見てもわかりません。だから、溶接には良心が必要です」そう話す石川さんには、さらに強みがある。これまで溶接の競技会に何度も出場し、優勝経験もあるので、いまでも競技会場に顔なじみが多く、「あの溶接棒の素材、使ってみてどうだった?」などと社外の方と業種の垣根を越えて話すという。向上心は年の差も越え、若い社員も石川さんから技術の指導を受ける。技術者の志と志との交わり。そこに火花が走れば、異なる素材も接つげるだろう。東日本旅客鉄道株式会社東京支社 東京総合車両センター東京都品川区広町2丁目1番₁₁₉号(撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり)石川さんは「まだ若い者には負けません」と、気力も充実しているが、アドバイザーとしての使命も意気に感じている。鉄製からステンレス製へと車体の素材は進化した。ガス溶接から半自動アーク溶接へと手段も変わった。しかし、溶接は、あくまで素材に応じた方法を使いわけるのが鉄則だ。たとえば、鋳い物ものの場合には半自動アーク溶接より、ガス溶接のほうが適している。だが、ガス溶接の技術はむずかしく、いまも石川さんのところに依頼が来る。工夫してつくる良心で溶接する国鉄からJR東日本になっても、現場では脈々と受け継がれている二つのことがあるという。一つは「ないものは、工夫してつくる」という自主性。会議室のスチール製のロッカーには枠づきの台車がついている。「こういうのがな車修場での修繕風景。台車を傾け、補強用パーツを溶接していた石川さんに溶接を教わった若手とともに、これからの鉄道を支えていくこのトーチをどう当てていくか。ねらい、角度、そしてスピード。見てわかるよう、具体的に図を描いて教えている石川さん首都圏の通勤電車「新系列車両」が運ばれていく構内鉄製の台車。鉄道の車両は車体と台車から構成される半自動アーク溶接のトーチ先端。溶接棒のワイヤー首都圏の通勤電車

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