エルダー2019年10月号
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2019.1034[第85回]「奇人伝」を出したい家業を成功させて家人に後こう顧この憂うれい※1のないようにし、自分は隠居して、「ずっと考えてきた好きなことを行う」ということの実行者で有名なのは、伊い能のう忠ただ敬たかだ。今回書く、伴蒿蹊も同じコースを辿たどった。伴は近おう江み八はち幡まん(滋賀県近江八幡市)の商人だ。それも大商人だった。代々当主は家を守ってきたが、伴も成功した口だ。かれがやりたかったのは、「この国(日本)の奇人を探し出して、それを一冊の本にすること」だった。いってみれば「奇人伝」を編あむ※2ことだ。そのためにかれは早期に隠居して、日本中を旅し、奇人を探して歩いた。かれ自身も奇人だった。宿屋に泊まったときは表に「奇人買います」という貼り紙を貼ったりした。ただ、かれには奇人に一つのイメージがあった。それは大坂の作家で「雨う月げつ物語」などを書いて名を馳せている上田秋成である。秋成も奇人だった。しかし、実際に出版した「近きん世せい畸き人じん伝でん」には、上田秋成は入っていない。上田はそのことが気になって仕方がない。(いつ、わしをあの本に入れてくれるのだろうか? 続編はいつ出るのだろうか?)と、ずっと思い続けていた。しかし、伴の方からはいつまで経っても何もいってこない。業を煮やした上田は、ついにある日伴のと※1 後顧の憂い……あとあとの心配 ※2 編む……多くの材料を集めて本をつくること

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