エルダー2019年10月号
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2019.102株式会社高倉町珈琲 代表取締役会長横川 竟さんともにする昔の部下や周囲の人たちから「もう一度やろう」との声が寄せられたことも、大きな後押しとなりました。―東京都八王子市の高倉町に1号店を出店したのが2013(平成25)年。いまは関東地区を中心に、フランチャイズ店を含め全国に23店舗を展開されています。どのようなことを大切にして、経営をなさっていますか。横川 私が若いころからずっと追い求め、いまも追い続けている経営の理念は、「世の中の役に立つ商売をする」ことです。お客さん、働く人、取引先、土地を貸してくれる人、地域の人、そして株主など、商売とかかわりのある人たちみんなに、楽しさ、喜び、豊かさを分かち合ってもらえる経営を目ざしてきました。それは「公益資本主義」という考え方に近いと思います。儲けだけを追求し、株主への配分ばかりに重きをおく「金融資本主義」の経営とは別の道です。―そのような経営理念を現場の社員に、特―「すかいらーく」の創業者として日本の外食産業を切り開いてこられた横川さんが、すかいらーくグループのトップを退かれたのが70歳。一般的には現役引退の年齢ですが、高倉町珈琲を75歳で起業されました。その思いをお聞かせください。横川 私は、レストランはただ食事をする場所というだけでなく、お客さんに楽しさや健康、安全などのプラスアルファを提供するところだと考え、「すかいらーく」や「ジョナサン」などの店を立ち上げ、育ててきました。しかし平成の30年間に外食産業で起きたことは、安さだけを追い求める価格競争で、お店から楽しさが失われ、ただの食堂になってしまいました。もう一度原点に立ち返り、レストランとはこうあるべきだというものを世の中に示したい。70歳をとうに過ぎてはいましたが、自分が生涯をかけてやりたかったことが実を結ばないまま、引退するわけにはいかないという強い思いがありました。私と志をに次代の経営を背負うリーダーたちに浸透させることが会社の存続と成長には不可欠だと思いますが、どのようにお考えですか。横川 私は「商売は、時代に合わせた変化はするが、原則は変わらない」と考えています。17歳で築地の仲卸問屋で修業を始め、半世紀以上も商売にたずさわってきたなかで、予想もできなかった大きな変化を数多く経験してきました。しかし、商品や技術などが変わっても、商いの精神、つまり経営理念は少しも変わらないし、経営者として変えてはいけないものです。 経営理念とはレールのようなもの。レールの上を走る機関車が商品です。レールの上を走るものは常に変化していき、時代に合わせて変えていかなければなりません。でも、それを導くレールが変わってしまったら、機関車は脱線します。これまで多くの会社が盛せい衰すいをくり返してきました。その多くは、創業者が敷いたレールを、その後を継いだ経営者が変えてしまったために、会社がダメになったのです。例えばレールの方向を変えようとか、レールの幅を広げようとか……。そんなことをしたら、たちまち機関車は脱線し、会社は傾きます。「レストラン」とは、みんなに楽しさ、喜び、豊かさを分かち合ってもらう場所

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