エルダー2019年10月号
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2019.1044たい」というビジョンを聞き、実現するための短期的目標などを設定する。面談を通じて組織・業績に貢献することが最終的な目標であるが、何よりも目標に向けて本人が自律的に行動するようにうながすことを主眼としている。本人が書いたビジョンシートに基づいて話し合うが、面談での最初の質問は「この前の研修はどうでしたか」に決めているという。「経験則でいうと、『楽しかったです』という人は職場でもがんばっている人が多く、逆に『辛かったです』という人は活躍できていない人が多い。その答えでどういう人なのかがわかりますし、昇進の状況や評価などの人事データと照らし合わせながら、コミュニケーションの内容を決めます」(浅井氏)面談の進め方としては、例えば財務系の社員の場合、「後輩の役に立つようになりたい」という目標だけでは具体性に欠ける。そこで「後輩に対して毎月第三水曜日に財務勉強会を開きます」と、客観的に実行しているかどうかがわかるように具体的な目標にまで落とし込んでいく。ただし、目ざす目標やレベル感は人によって異なり、まさに百人百様。浅井氏が常に意識しているのは、本人の置かれた状況や能力を見極めたうえでアドバイスすることだ。「本人のレベルに合わせて個別に対応するようアドバイスすることもある。「出世したいというのはサラリーマンとしては健全だと思いますが、客観的に見てその可能性が低いと思われる場合は、私の判断で別の可能性を提案することもあります。例えば『昇進するにはマネジメントスキルが必要になりますが、それに向けて努力するよりもITリテラシーをもっと磨いたほうが業務を進めるうえで役に立つし、会社からも評価されますよ』と話す。本人にとって何が一番幸せにつながるのか、自分にふさわしい生き方をどのように見つけていくのか、キャリア指導というよりも、考え方、思考法をアドバイスするのが私の役割だと思っています」(浅井氏)社員自身が現状と向き合い新たな目標を設定できるようサポート同社のボイス&ビデオコミュニケーションサービス部の森川裕ゆう子こ氏も浅井氏のアドバイスによって当初の目標を修正し、新たな目標を発見した一人だ。「ずっと働き続けたいと思っていますが、会社で何が活かせるのかわからなくて、『英語は仕事のためにも必要かも』と勉強はしていましたが、なかなか身につかない状態でした。面談のときに浅井さんから『〝かも〟には投資しなうにしています。極端な例ですが、朝の出社時に挨拶をしない人が、『おはよう』というだけでも、『チームの雰囲気が変わった』と上司から感謝されることもある。前向きに仕事をするためなら、『毎朝、おはようと挨拶をする』という目標設定も〝あり〟なのです」(浅井氏)あるいは肥満気味の社員に「英語を勉強するよりもウォーキングをしなさい。時間が余ったら英語の勉強をしては」とアドバイスしたこともある。同社では英語力の習得を奨励しているが、「本当に英語をやりたいのか疑問でした。アドバイスを受けて本人は熱心にジョギングをやり、半年後には『体重が8㎏減り、身も軽くなり腰痛もなくなりました。おかげで仕事も充実しています』と報告を受けました。50歳にとってはやはり健康も重要。その人にとって何が幸せなのかという視点は大切です」と語る。面談では本人の悩みの解決も重視しているが、悩みの7割がプライベートに起因するものだという。老親の介護、腰痛による通勤の辛さ、再雇用後の住宅ローンの返済など多岐にわたる。それぞれの悩みをどうやって乗り切っていくのかを考えさせ、解決に導いていくのも浅井氏の役割だ。また仕事の面で「高い評価を得て、昇進したい」という人もいる。それがむずかしいと思われる人には、あえて目標を修正するよ

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