エルダー2019年10月号
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エルダー45いで。50歳ですよ』といわれたのです。たしかに、周りには流ちょうに英語を話すことができる人はたくさんいるし、そのような人たちにいまから追いつくことはできないことに気づきました。同じ時間を使うなら、別の『勝てるもの』に投資を、と指摘され、では何をやろうかと考えていったのです」話し合ううちに森川氏の頭に浮かんだのは大学時代に経験した家庭教師の思い出だった。「成績がよくない子を一対一で教え、成績を大きく伸ばすことが得意だったことを思い出しました。人の成長にかかわれること、それを支えることが自分にとってはうれしいし、頭の隅で『いつかカウンセラーのような仕事をやってみたい』と思っていました。また、50歳まで長年企業で働いた経験も何か活かせるのではないかと考えました。浅井さんもカウンセラーはいいねといってくださり、キャリアコンサルタントの仕事の話を聞いて、チャレンジしたいという思いが強くなりました」浅井氏からも「AIの時代に代わることができない仕事として、これからも必要になるし、60歳以降も活躍できる可能性がある」とアドバイスされた。面談を契機に森川氏はキャリアコンサルタントの資格取得を目ざして勉強をスタートし、今年の8月に見事に合格している。ベテラン社員の活躍に必要なのは人事担当者の熱意と経営ポリシー面談は一回で終わりではない。「1時間経過してもまだ考え込んでいる人は、一皮剥むけそうだなというところまで何度も実施し、計10時間やった人もいます。その人なりに何かの感触を掴つかむまで逃がさないようにしています」(浅井氏)。一方、社員からももう一度面談をしてほしいと依頼されることも多いという。面談終了後、対象者の上司に浅井氏が書いた「面談所感」をフィードバックしている。対象者の人となり、どんな価値観を持っているのか、あるいは「どんな仕事に向いているのか、本人への接し方を含めて、『こうすれば力を発揮すると思います』というアドバイスも入れます。また、上司も含め、前向きに仕事に取り組む環境を整えるため本人の了承を得て、『上司にこういう不満を持っています』など、あらゆるメッセージを書き込んでいます」(浅井氏)。また、面談で設定した目標を実行しているかどうかについて、メールや電話で定期的に確認している。実行日にまだやっていなければ「ダメじゃないか、やらないと」と発破をかけることもある。面談を軸とするプログラムは、冒頭に述べた上司調査でも7~8割が「行動に変化があった」と答えるなど成果を上げている。それでも浅井氏は「裏を返せば2~3割は変えることができていない」と自らを戒める。同社の最大の特徴は、一対一の面談を軸にキャリア開発の仕組みを構築していること、また浅井氏のようにこの業務に全力を傾けられる専任のスタッフが存在すること、そして何より会社がベテランの活躍に期待し、経営トップを含めて全面的にこの仕組みをバックアップしていることだ。単に制度を構築するだけではモチベーションは向上しない。それに命を吹き込む担当者のエネルギーと、それを信じて行動を起こす社員を支える経営ポリシーがいかに大事であるか、改めて教えてくれる。ボイス&ビデオコミュニケーションサービス部の森川裕子氏高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

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