エルダー2019年10月号
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そのほか、労働者から個別の同意を得ることをもって、労働条件を変更するということも考えられます。労働協約によって設定されている労働条件がある場合には、労働組合との事前協議を経て、最終的な労働条件を定めた労働協約を締結することが理想です。しかしながら、合併により存続する会社の労働組合と、消滅する会社の労働組合が併存するのか、それとも合流するのか、もしくは一方は解散(消滅)するのかなど状況に応じて、労働協約を締結すべき労働組合は変わってきます。したがって、労働協約が存在する場合には、合併後に存続する労働組合との間で、合併後に適用すべき労働協約について協議して、締結することになると考えられます。労働条件統一にあたっての留意点3労働組合が存在しない場合には、労働協約ではなく、就業規則の変更によって労働条件の統一を目ざすことになります。しかしながら、就業規則の変更は、完全に自由に行えるわけではなく、不利益な変更については、労働契約法による制限があります。労働契約法第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」と定め、同法第10条は、不利益変更の合理性に関して、「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」にかぎって、その就業規則の変更が有効であることを許容しています。合併後の労働条件の統一にあたっては、すべての労働条件について、いずれか有利な条件を採用して、労働者にとってもっとも有利な条件で統一する場合でないかぎり、存続会社または消滅会社のいずれかにとっては不利益となる項目が多数出てくることが通常です。また、仮に有利な条件で整えようと試みた場合であっても、手当の額など金額の比較のみで決定できる場合とは異なり、始業時間は早い方が有利なのか、それとも遅い方が有利なのかについては、一概に決定することはできませんし、手当についても支給条件が異なる場合には、いずれに統一する方が有利なのか判断することは、実際の場面では困難がともないます。したがって、不利益変更をともなうことを避けることはできないといっても過言ではないでしょう。合併時の労働条件の統一と不利益変更に関する判例4合併時の就業規則変更による労働条件の統一に関する最高裁判例として、大おお曲まがり市農協事件(最高裁昭和63年2月16日判決)があります。当該判決においては、就業規則の不利益変更の合理性を判断するにあたって、「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される」と判断しました。なかでも、「賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」としており、賃金の減額に関しては明示的に厳格な基準を設定することを打ち出しています。したがって、賃金の減額に関しては、就業規則の変更のみではなく、労働者の同意を得て行うべきですが、同意の取得方法に関しても、最高裁平成28年2月19日判決において、エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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