エルダー2019年10月号
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規雇用労働者を非正規雇用労働者に変更するよう強要することも不利益取扱いとして例示されています。したがって、質問のようなかたちで、有期雇用のパートタイマーといった非正規雇用へ契約内容を変更するよう強要することは、育児休業法により禁止されており、仮に変更したとしても無効とされてしまうと考えられます。しかしながら、「強要」という表現がされている通り、強要によらない契約内容の変更まで完全に否定されているわけではありません。非正規雇用への変更にあたっての同意について3非正規雇用の契約に変更するにあたって、本人の同意を得るために留意すべき事項について、検討しておきたいと思います。使用者と労働者の関係性から、使用者が求める契約内容を断ってしまうと、不利益な取扱いを受けるのでないかといった懸念を労働者が持つことは想像に難くありません。そのため、同意によるものかについて、裁判所も慎重に判断する傾向があります。例えば、東京地裁平成30年7月5日判決においては、労働時間の短縮措置を求めた労働者を、合意によってパート社員へ切り替えたことに関して、「労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には、事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取り扱ったものではないから、直ちに違法、無効であるとはいえない」としつつも、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである」と整理しています。さらに、合意の成立を認めるためには、「当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべき」という基準を設けました。この裁判例においては、短時間勤務となるためにはパート社員になるしかないといった説明を受けて行った労働契約の変更に対する合意については、自由な意思により行われたものではないため、有効なものとは認められませんでした。自由な意思による同意について4裁判例が用いた「自由な意思」という言葉や、「合理的な理由が客観的に存在することが必要」といった内容については、賃金の減額をともなう労働条件の不利益変更を行う場合と同等程度の基準をもって判断することを意味しており、育児休業に対する合意による不利益取扱いについて、労働条件においてもっとも根幹をなしている賃金の変更と同程度に重要な労働条件として保護されるべきということを意味しているといえるでしょう。したがって、労働時間の短縮措置に対して、契約内容を不利に変更することを実現するためには、変更の必要性が高いのみならず、十分な説明内容や不利益の緩和措置があることなどから、一般的な労働者であれば応じることが合理的であると説明可能なものとしなければ、およそ有効にはなりえないものになると考えられます。非正規雇用といった内容に変更せずに、現行の契約内容のまま短縮措置を講ずることができるように、業務内容や社内の体制を整備するほか、短時間措置の適用に備えた就業規則の内容とするなど、育児中の労働者への支援が可能となるように留意する必要があります。エルダー49知っておきたい労働法AA&&Q

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