エルダー2019年10月号
57/68

エルダー55FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫ゴマは現代人の兵糧丸強運を呼ぶゴマ入り兵ひょう糧ろう丸がん運勢を気にする人は、少なくありません。占いで「大吉」が出たりすると、思わずバンザーイ! をしたくなります。それだけ、現代は不安な時代なのです。戦国時代の武士にとって、自分の運勢は、現代人以上に強い関心ごとでした。いったん合戦がはじまれば、あとは運次第のようなところがあるからです。運よく勝利すればよいが、運が悪ければ、敗走どころか、自分の命だってあぶない。そのため、武士たちは、強運を呼ぶために、さまざまな縁起をかつぎました。守り神を身につけるのはあたり前。武士によっては、兵糧丸や梅干しでつくった丸薬などを持参しました。なかでも注目されたのが、疲労回復、記憶力強化、無病息災、百戦百勝の効果があるとしてつくられた「兵糧丸」。素材は、武将によっていろいろあるのですが、いずれの場合でも中心となるのが「ゴマ」なのです。黒ゴマをメインに、そば粉、玄米粉、かつお節の粉、くるみの粉、ニンニクなどが入ります。若返り成分がたっぷり体はほうっておくと、どんどんさびついてしまいます。つまり、酸化力の強い活性酸素による酸化が起こるのです。戦国武士であろうと、現代のビジネスマンであろうと、酸素を吸って生きている以上、だれも避けることはできません。さびを防ぐのが抗酸化成分で、なかでも注目されているのがゴマに多いセサミン。抗酸化力がきわめて強く、体細胞や血管の老化を防ぎ、心臓病の予防にも役立つ作用があるといわれています。美容や長寿効果で知られているビタミンEや骨を丈夫にするビタミンKも豊富。武士にとって欠かせない、疲労回復に効果的とされるビタミンB1も多い。そのうえ、ゴマには認知症の予防作用で脚光を浴びている、ビタミンB群の一種である葉酸もたっぷり。カルシウムも多く、100g中に1200mgも含まれ、骨の若さを保ったり、イライラを防ぐ効果もあります。ゴマは、現代人の兵糧丸にぴったりのパワフルフードといってよいでしょう。313

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る