エルダー2019年10月号
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2019.1062フィッシングボートの骨組み。ラワン材を曲げてつくる龍太郎さん(左)。建造後12年経った船の復元修理。カンナをかける稔さん(右)まも現役の船大工職人として、木造船をつくり続けている。二人は、8代目※1の父親から、こういわれたという。「船の種類は変わっていくけれど、時代の波に乗っていけ」江戸時代中期から約200年。佐野造船所は時代とともにあった。戦後も漁師の声を直接聞き、江戸前海苔の漁に合わせた、漕ぎやすく取り回しやすい漁船や、木場で使う、木材いかだの曳ひき船をつくってきた。代々受け継がれてきた高い技術と、乗り手を思う設計や仕様の工夫で、一人ひとりのお客さまの要望に応えてきた歴史がある。8代目からは洋船も勉強して手がけ、9代目の龍太郎さんと稔さんは、自然を楽しめるヨットや、快適なプレジャーボートを、一から次々とつくりあげていった。和船にも洋船にも詳しいため、新しいことにも挑戦できる。「埼玉県草加市の観光船では、丸太から製材してつくった昔ながらの和船に、最新のエンジンを載せました。内装だけが和風のプラスチック船ではなく、本物の『和船』です。川岸からも、この船に乗りたい、と声をかけられました」〝乗りたい、また乗りたい〞といわれる船がよい、と二人はいう。あまり宣伝はしていないが、実は佐野造船所の桟橋から、貸切りで東京湾などを自由に巡るオーダーメイドクルーズもある。「海から見る東京は、非日常の景色です。乗り心地もよく、特に50代の女性から人気なんです」乗ると、すぐにわかった。船長の稔さんは操船も超一流だ。だれが見ても美しい船をつくるだから曲線は「木」で描く龍太郎さんと稔さん、どちらがつくっても、佐野造船所でつくられた船に共通することがある。それは、船の美しさ。「乗り手に合わせてつくります。ありふれた量産品はつくりません。だれが見ても美しいね、という船を目ざしています」※1 8代目の佐野一郎さんは個人として江東区の無形文化財指定を受けていたが、9代目からは佐野造船所として無形文化財指定を受けている

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