エルダー2019年10月号
65/68

エルダー63「親の真似はするな」自分の理想を追求した新しい船を、仕事を手伝う合間に一から設計し、完成させて初めて、お客さまの注文を受けられるという。そういうしきたりなのだ。代々、幼少期から船に親しみ感覚が育つことも大切にしてきた小学生のころから、遊びで釘を打ったり、のこぎりで木を切ったりしていたという龍也さん。龍太郎さんたちも同じだった。「雑念がない子どものうちから船や仕事を見ている。それが純粋に自分の感覚になるんです」まず自然な環境で感覚を覚え、後になって意味に気づき、そこから自ら磨きをかける。これこそが匠が育つ家の秘密だろう。有限会社佐野造船所http://www.sano-shipyard.co.jp/オーダーメイドクルージングhttp://dover-japan.com/(撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり)「だれが見ても美しい」「あの船の形なりがいい」古くからの船宿の旦那たちだけではなく、海外の人や初めて見た人も感じる美しさの秘密は、曲線だ。しかし、船の図面はたった3枚。製図用のCAD※2も使わない。「コンピューターで引いた曲線は、短い直線の集まりなんです」製図だけではない。骨組みも、実際に木の棒をあて、鉛筆で線を引く。たしかな手作業の積み重ねに、人間の美意識やセンスが込められる。だから、船にそれぞれの曲線が生まれる。「兄弟でも違います。でも、並べて見ると、佐野さんの船だっていわれます」と、二人は笑う。そこにこれから、10代目の龍たつ也やさんの描く曲線も加わる。龍也さんが現在製作中の船は、初めて乗った父親のボートの格好よさが原点にある。だが、9代目が教えていることは、ただ一つ。※2 CAD……コンピューターによる設計支援ツールのこと船内の扉や家具、収納なども木を加工して自作する。エンジンやクッション以外、内装も外装もオール手づくり造船所の遠景。龍太郎さんが製作した30年以上現役のヨットやボートが並ぶ61ページの船Dover(ドーバー)の操舵席。内装は高級チーク材ドック内。左は完成が楽しみな10代目龍也さんの船。右は稔さんが復元修理中の船。木の船は長持ちするほかと同じことをしたくないんです、と語る若い10代目に、9代目は「私たちはどんな船でもつくります」と誇り高く笑う図面は10分の1サイズ。直線を引く黒い墨つぼは7代目から贈られたもの

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る