エルダー2019年11月号
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2019.1144若者の働き方を支えるために"元気高齢者"の柔軟な働き方の実現へ今月から6回にわたり、高齢者就労、ひいては日本全体の働き方改革の促進へ向けた情報科学的アプローチの話題を連載することになりました。筆者は、学生時代から20年にわたり現実世界と情報世界を融合させる「拡張現実感」という技術やそれを実現する装置であるウェアラブルコンピュータ(身につけられるコンピュータ)、いまではIoT(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれるユビキタスコンピューティング※2の研究開発にたずさわってきました。超高齢社会にかかわる研究を始めたきっかけは、博士号の取得後に産学連携で立ち上げられた、少子高齢社会を支える情報技術・ロボット技術の研究開発に参画したことです。そこでは、学生時代より研究していた、人の位置に応じた情報提示を行うための屋内測位の技術を用いて、家事支援ロボットやパーソナルモビリティと呼ばれる移動支援ロボットが、人と共生する空間で行動するための位置情報インフラの研究開発に取り組んでいました。この研究を通して超高齢社会について知るうちに、「いまのシニア世代は、どうやら若いわれわれや学生よりも発言力があり、世の中のことをよく知っていて強そうだ」ということや、65歳以上の90%近くは自立した生活を営んでいる、ということが分かってきたわけです。全人口に占める割合も少なく、人材が流動化する風土を育てないままに拡大する非正規雇用にあえぐ若者が支える社会よりも、逆三角形の人口ピラミッドをひっくり返した大勢の元気高齢者が、不安定な若者を助ける新しい社会構造の方が安定しているのではと思い始めました。そして2011(平成23)年からICT(情報通信技術)を活用して、元気高齢者の柔軟な働き方を実現する研究開発に取り組み始めました(図表1)。多様化するシニアの就労観に対応可能な就労支援システムを2014年の内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると、仕事をしているシニア(60歳以上)の42%が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しました。「70・75・※1 AI・ICT……AI(Artificial Intelligence)は人工知能、ICT(Information and Communication Technology)は情報や通信に関連する科学技術の総称※2 ユビキタスコンピューティング……環境に遍在するコンピュータ―高齢者から始まる働き方改革― 生涯現役時代を迎え、就業を希望する高齢者は、今後ますます増えていくことが予想されます。そんな高齢者の就業を支援するうえで期待が集まるのが「AI・ICT」※1。AI・ICTの活用で、高齢者が持つ知識や技術、経験を効果的に活用できる働き方が実現すれば、現役世代の負担軽減につながります。それが、〝高齢者から始まる働き方改革〞の姿です。東京大学 先端科学技術研究センター 講師 檜ひ山やま 敦あつし第1回AI・ICTを活用した高齢者への就労支援の意義と課題で働き方が変わる新連載

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