エルダー2019年11月号
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2019.1146類になりますが、ボランティアなどの地域活動や趣味などの文化活動であってもフレイルリスクを抑えることに寄与していることになります。私は高齢者の就労を考えるときに「就労」という言葉を、「社会参加」という意味にまで広くとらえる必要があると感じています。高齢期においては、一人ひとりの置かれた心身の状況や、経済的な状況、そして社会とのつながりは多様になっています。退職後にいきなり新しい仕事に取り組み始められる人もいれば、起業する人もいる。逆に、新しい仕事や地域社会との関係をどのようにつくればよいのか戸惑う人もいる。一人ひとりの置かれた状況に寄り添い、段階をふみながら社会参加から就労へという流れをつくるシステムが必要だと考えています(詳細については、第2回で解説します)。シニア人材の知識・経験をホワイトカラーの仕事で活用するためには将来、企業にとって人材の確保がさらに大きな課題になります。日本はすでに人口減少が始まっていますが、2030年代には年間100万人を超えるペースで人口減少が加速していきます。毎年政令指定都市が一つ日本から消えていくことをイメージすると、そのスピードは驚くべきものでしょう。少ない現役世代の能力を活かすためには、社員の職務の選択と集中が必要です。そして、革新的な人材を正社員として抱え込んで、社会への影響をかぎられた範囲に制限するのではなく、プロジェクト単位で複数の企業の仕事を推進するインディペンデントコントラクターとして働く道筋をつくることが求められます。そのとき、シニア人材は、現役世代がキャリア形成のために集中するべき職務の周辺作業をサポートできる存在になります。シニア就労というと、企業の状況によっては、企業の経営相談のような非常に高度な仕事か、特にスキルを要しない作業の両極端な業務が求められるケースも少なくありません。しかし、多くのシニアはその中間の現役時代につちかってきた経験も活かせるホワイトカラーの仕事を求めています。ホワイトカラーの仕事の開拓は、現役世代の働き方の改革と車の両輪を成す形で進んでいくものになるでしょう。新しい働き方へ向けた価値観の転換に関するお話しは第5回に詳しくまとめたいと思います。高齢者の就労支援の成功はITスキルの習得がカギとなる働きたいシニア、働き手を求める社会、その両者を効率的に結びつけられるICTと、新しい社会を形づくる役者はそろって来ているのですが、なかなか社会全体としてその動きがつながりません。お互いに必要性を感じつつも、向いている方向が違っている印象があります。前述のように求人側がホワイトカラーの仕事の切り出しができていないことが一つの課題です。もう一つの課題はシニア層へのICTの普及促進です。シニア就労の研究を始めた2011年当初、研究開発したシステムの実証評価で連携している柏市のシニアコミュニティでスマートフォンを活用している人はほんの数%程度でしたが、いまではかなり増えています。ただ、それでもウェブサービスのアカウント作成や、アプリのインストールは敷居の高い作業のようです。例えば、地域のシニアの社会参加を促進するウェブサービスとして研究開発した「GBER(ジーバー)」(詳細は第2回で紹介)について、熊本県のシニア約30名に対して使い方の講習会を開きました。みなさんご自身のスマートフォンを持って受講されましたが、サービスへのログイン画面で正しく入力しているにもかかわらず、スマートフォンの自動文字校正機能が働いて、近い英単語に変換されたり大文字や小文字に変換されたりするため、入口からつまずいてしまうことがありました。20年後のシニアは使

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