エルダー2019年11月号
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る場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない」とされ、求人情報の変更の際には、変更後の条件を明示する義務まで定めており、求人情報と労働条件の相違がなくなるような施策が採用されています。求人情報の記載と労働条件2求人情報の正確性を保つ施策が採用されているとしても、これは行政上の規制であり、労働契約の成立にあたって、どのような効力があるのかについては、労働契約成立の過程などをふまえた、当事者間の合理的な意思解釈に基づき行われることになります。過去に、求人票と労働条件が異なることが紛争に至った事件があります。例えば、東京地裁平成21年9月28日判決があります。当該裁判例は、雇用形態について「正社員」である旨記載された求人票に基づいて応募してきた求職者に対して、会社が「契約社員」としての採用を決定し、その旨を求職者に伝えたうえで、雇用契約の締結に至った事案です。まず、求人票と労働契約の関係について、「使用者による就職希望者に対する求人は、雇用契約の申込の誘引であり、その後の採用面接等の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がない限り、合意の内容が求人票記載の内容に優先すると解するのが相当である」と判断基準を示し、労働条件を知らされてから1カ月以上の検討期間が設けられていたこと、他社に在籍中でもあったことから契約締結を余儀なくされる状況にもなかったことなどから、正社員から契約社員へ労働条件が変更されたとしても、最終的な労働契約の合意が優先されると判断しました。一方、反対の結論となった裁判例もあります。京都地裁平成29年3月30日判決であり、こちらも正社員としての採用が求人票に記載されていたところ、実際の契約においては契約社員とされたというものです。当該判決は、「求人票は、求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は、当然に求職票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である」という判断基準を示しました。また、当該事件においては、面接時においても求人票と異なる条件の説明はなかったことなどから、特段の事情の存在を認めることなく、求人票記載通りの労働契約が成立したものと判断されました。求人票記載時の留意事項3結論の異なる2種類の判決を紹介しましたが、いずれの裁判例からも求人票記載の際に留意すべき事項は整理することが可能と考えられます。求人情報の掲載が、労働契約の申込みを誘引するために行われることは疑いないところであるため、特段の変更が示されないかぎりは、誘引の原因となった求人情報と同じ内容での労働契約が成立するというのが自然な流れでしょう。求人票と異なる労働条件で労働契約を成立させるためには、求人票よりも後の段階で、異なる労働条件の提示がなければなりません。このことは、職業安定法が、労働条件を変更する場合には、変更後の条件を明示しなければならないと定めたこととも相まって、不意打ち的な変更は許されにくい傾向になっていくでしょう。二つの裁判例の結論を左右したのは、面接の時点やその後の労働条件のやり取りにおいて、変更する内容について提示したうえで、求職者に判断する機会を与えていたことです。さらにいえば、検討の機会を与えるだけでは不十分な場合もあります。それは、変更のエルダー49知っておきたい労働法A&Q

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