エルダー2019年11月号
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2019.1152第3回(8月号)でご紹介したように、ヒトが生命活動を行うなかで、全身では多くの活性酸素(酸素ラジカル)が生産されます。この悪玉の活性酸素が、細胞の重要な部品(タンパク質や細胞膜脂質など)を酸化させて一時的に傷つけてしまうことによって、疲労がもたらされるのです。加えて、細胞の傷が修復できないままの状態で残ってしまうと「老化」にもつながることがわかってきています。疲労の回復のためには、身体のホメオスタシス(恒常性)を維持する仕組みや、質のよい睡眠を十分に取るといった、体内の抗酸化物質の作用からの回復(=細胞の酸化状態からの回復)に努めることが大切です。さらに疲労を解消するためには、①細胞やタンパク質を傷つける活性酸素の発生を抑え、②発生した活性酸素を解消し、③傷ついた細胞を活性化するために必要な栄養素を摂ることで「疲労回復システム」を確実に修復することも必要です。疲労回復システムがスムーズに稼動すれば、疲れにくくなり、疲労の予防にもなります。そこで今回は、食生活の面から疲労回復するための対策として、どのような栄養素が疲れを予防し、疲れの解消に効果を発揮するのかを紹介します。食事で疲れを取る!活性酸素の発生を抑え、代謝をよくするカギは、毎日の食事にあります。エネルギーを増大させ、疲労回復に有効な栄養素は図表の通りですが、これらの栄養素をバランスよく摂ることが重要です。(1)ビタミンB1ごはんやパンなどの炭水化物は、呼吸から取り入れた酸素を使うことでエネルギー(アデノシン三リン酸、ATP※)となります。その過程でビタミンB1の助けが必須になります。ビタミンB1が不足すると、炭水化物をどんなに食べてもエネルギーに変えることができません。【多く含まれる食品】うなぎ、かつおなど(2)α-リポ酸α-リポ酸はビタミンの一種で、ビタミンB1とともに働き、炭水化物のエネルギー代謝を促進させるほか、活性酸素を防ぐ抗酸化作用があります。α-リポ酸が少なくなると、糖がエネルギーとして代謝されず、肥満の原因にもなります。α-リポ酸の抗酸化作用はビタミンCやビタミンEの数百倍もあるとされます。抗疲労の強力な助っ人といえるでしょう。【多く含まれる食品】じゃがいも、トマトなど(3)パントテン酸(ビタミンB5)パントテン酸は、ビタミンB2と協力して脂質の※ ATP……すべての生物の細胞内に存在するエネルギー分子で、ATPは活性酸素によって傷ついた細胞を修復するときに重要な役割を果たしている第6回疲労の回復に効果が期待できる栄養素国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復

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