エルダー2019年11月号
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2019.1156FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫ニンジンを食べて今日も元気江戸っ子は葉も食べていたニンジンはセリ科に属し、原産地は中央アジアから北アフリカにかけて、幅広く分布しています。中国経由で日本に入ってきたのは戦国時代で、普及するのは江戸時代になってから。1697(元禄10)年の『本ほん朝ちょう食しょっ鑑かん』という食物事典によると、「人参菜」とあり、葉もほかの葉野菜と同じように、いろいろな料理法で食べられています。根の方は現在と同じ「ニンジン」と呼ばれ、「煮ると甘く、味噌漬けやかす漬けにするとうまい」とあります。葉には、ビタミンC、E、それに骨を丈夫にするビタミンK、脳の若さを保つ作用で注目の葉酸などが、根よりも多く含まれており、江戸の人たちのように、もっと活用すべきではないでしょうか。明治になって、ヨーロッパの文化が渡来して、野菜としての地位も向上し、栄養効果も高いことから、広く普及し家庭料理の材料としても人気が出ます。当時のサラリーマンの弁当のおかずとして、ニンジンとゴボウのキンピラが大評判となりました。ところが江戸時代まで食べられていた葉の方が、明治に入るとなぜか食用とされることが少なくなり、現在と同じように食べるのは根が中心となってしまいます。油料理で健康効果が高くなる健康によい野菜というと、まっさきに「ニンジン」をあげる人が多いそうですが、そのくらいに健康野菜として注目されているのです。鮮やかな赤だいだい色からもわかりますが、ニンジンはカロテン含有量が多く、野菜のなかでもトップクラス。ニンジン中のカロテンの大部分は、抗酸化成分として知られるベータ・カロテンで、若返りやガン、動脈硬化などの予防に役立つことが期待されています。カロテンは油溶性なので、生のまま食べても吸収率は低く、油で炒めたりテンプラにすると、吸収率もよくなり、健康効果も高くなることがわかっています。油を用いて料理するキンピラは、栄養的にも理にかなっています。ニンジンの葉も立派な緑黄色野菜であり、先述の栄養素に加え、カロテンや食物繊維も多く、テンプラや油炒めなどにすると風味があります。314

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