エルダー2019年11月号
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2019.1162開店前は多忙を極める。若い職人の仕事ぶりや後ろのオーブンの温度も気にかけつつ、速く正確な手仕事で1枚ずつシトロン※1に砂糖を塗る藤生さん味も見た目も最高峰の生菓子や焼き菓子、約200種類が揃う。オーナーの藤生義治シェフが、「隅すみ々ずみまで目が届くのがいい」という小さなお店。いまもなお現役で厨房に立ちながら、お客さまの目でショーケースを見る。お菓子への愛と厳しさにあふれる藤生さんは、若い職人を鍛えるのも日課だ。パリで修業する日本人がまだ10人たらずの時代に藤生さんは23歳で渡欧して、パリの有名店ジャン・ミエで修業。その後、ウィーンの老舗ハイナー、スイスの製菓学校を経て帰国。キャリアを重ねた。パティシエ人生50年。甘さは、時代とともに変わってきたと語る。「当時のパリでは甘さたっぷりお酒もたっぷりだったのが、いまは健康志向で控えめですからね」このバランスは味に影響する。甘さを変えず、お酒だけ減らしても味が違う。甘さ控えめで、お酒だけ多いと酔ってしまう。大切にしてきたのは味だ。「古典から伝統菓子をつくりますが、現代のほうが材料が良質で昔よりおいしくなる。バターや生クリームは北海道産。ヨーロッパに気候が近いので、おいしいです」話を聞くほど、藤生さんは甘い物が好きだとわかる。取材中に、少し意外な発言もあった。「歳のせいか、和菓子の甘さがいいよね。季節を大事にしているのもいい」と。よいものはよいと、素直に感じて、憧れる。自分の味覚にヨーロッパで学んだ技術を重ねたから、ものにできたのだろう、と藤生さんは述懐した。教えるときに個性は見ません計量や数字、基本が大事ですフジウで学びたいと、専門学校を出た若者が毎年春になると店に入ってくる。ここにいられるのは5年までだ。藤生さんの横で仕事ができるのは2年目から。先輩と後輩が一緒にフランスの文化を大事にしたい。経験してきた自分の意識や想いに細かなところまでこだわりたい。小さなお店だから徹底できます。※1 シトロン……レモン味のクッキー

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