エルダー2019年12月号
11/68

特集70歳雇用 先進企業はこうしているエルダー9てきたような定年の廃止や延長は受け入れがたかったものの、時代も進み、実際にやってみたら問題なくできたということでしょうか。清家 90年代の企業は、「中長期的には必要だとしても、まだまだむずかしい」という反応だったと思います。当時は、バブル経済が崩壊し、日本経済も厳しい時代でした。人余りの状況もあり、そこで定年延長を決断するのはなかなかむずかしいという状況がありました。 その後、法改正の効果により65歳までの雇用は進みましたが、人を雇ううえでは、どんなときも「問題なくできる」などということはありません。賃金の仕組みを見直すなど、各社がいろいろな工夫や苦労をしながらそれを実現しているわけです。そうした仕組みづくりには、高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施している高年齢者雇用開発コンテスト、65歳超雇用推進プランナーや高年齢者雇用アドバイザーによる相談・助言なども役立っています。70歳雇用の大前提として65歳定年の実現を―「成長戦略実行計画」では、70歳までの就業機会確保の方針が示されました。現在の高齢者雇用にまつわる課題とはどのようなものでしょうか。清家 先ほどお話ししたように、60代前半の雇用はあたり前になりましたが、今後について考えると、65歳でよいのかが論点になります。平成30年簡易生命表によれば、65歳時点での平均余命は、男性約20年、女性約24年です。65歳で引退した場合、大まかな計算でいえば20代前半から60代半ばまで約40年強社会を支え、残りの20年は現役世代に支えられることになり、バランス的にはかなりきつい。70歳くらいまでは、社会を支える側にいてもらう必要があります。この点は、すでに政策的措置が講じられつつあります。雇用保険の適用は70歳までに拡大され、厚生年金のくり下げ支給では70歳まで年金額が増額されます。70歳までの雇用確保は、当然進めなければなりません。 そのためには、大前提として、まず65歳までは普通に働く―再雇用などではなく、定年をしっかりと65歳に引き上げることが大切です。2025年までには、65歳定年化を進めるべきでしょう。そのうえで、65~70歳のところは、多様な就業形態であっていい。現在の60代前半の働き方を、60代後半にもっていくというイメージです。―60歳定年のまま、70歳までの10年間を再雇用などでつなぐ形ではいけませんか。清家 高齢者の能力活用やモチベーションの面で望ましくありません。再雇用制度は65歳までの雇用確保を進めるための短期的な経過的措置としてはよかったと思いますが、今後はしっかりと定年を延長すべきです。企業には、高齢者の能力活用と生涯能力開発が求められる―定年延長以外では、企業にはどのような対応が求められますか。清家 一番大切なのは、高齢者の能力をいかに活用するかです。「就業機会を確保する」というと、なにか無理をして雇う印象を受けるかもしれませんが、それは違います。労働力不足の進むなか、高齢者の活躍は、企業の成長にもつながります。ポイントは、高齢者をただの「人手」として扱うのではなく、つちかった能力や経験を活かして、より付加価値の高い仕事をしてもらうこと。高齢者の能力をどのように活用するかを、企業は考える必要があります。 高齢者の能力を特に活用しやすい分野は、製造業でいえば受注生産です。決まった物を安くたくさんつくる仕事は、経験のない若手や機械にもできるかもしれませんが、いままでにない製品をつくり上げるといったことは、高齢者の経験が活きる仕事です。もう一つ、ベテランの人たちが上手なのは、仕事の管理です。いま、若

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る