エルダー2019年12月号
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2019.1210い人たちがITベンチャーなどでがんばっていますけれども、彼らは、ITの技術やアイデアは豊富にあるものの、生産管理や人事マネジメントなどについては、ベテランに「一日の長」※2があります。 それから、今後、日本経済の中心になっていく高度なサービス―観光や医療・介護などの対個人サービスにおいても、高齢者は、きめの細かいサービスを提供できるでしょう。 また、高齢者を活用するうえで大切な条件となるのが、柔軟な働き方です。長時間ではなく、もう少し短い労働時間。65歳以上は年金と合わせて短時間で収入を確保する柔軟な働き方や、在宅勤務制度などもあってよいでしょう。―高齢者のより一層の活躍推進に向けた展望について、考えをお聞かせください。清家 われわれの研究からも明らかですが、高齢者が働き続けるうえで大きなネックになるのは、健康状態です。政府が進めているように、若いうちから生活習慣病の予防に取り組み、健康寿命を延ばすことはとても大切です。 もう一つ、職業寿命を短くする要因が、仕事の能力の陳腐化です。経験や技能はあっても、新しいテクノロジーを使いこなせないためにそれを活かせないこともあります。そうならないように、生涯にわたる能力開発の仕組みを実現していくことも大切です。 意識の改革も大切です。例えば、統計の用語で、15~64歳を「生産年齢人口」といいますが、65歳以降もこんなに多くの人が働き続けているのに、おかしいでしょう。そういうところから意識を変えるべきです。―生涯能力開発は重要だと思いますが、どのように行えばよいのでしょうか。清家 仕事の能力開発の場は、やはり職場です。高齢者は、物をつくる、仕事の管理をする、きめ細かいサービスをするといった能力が蓄積しています。ただ、それを具現化する方法―例えばパソコンをはじめとするICT機器は技術の進歩によって変わっていきます。つちかってきた能力を発揮できるように、技術の進化にキャッチアップしていく必要がありますが、それは個々の仕事によって違いますから、企業のなかで高めていくべきでしょう。生涯にわたって能力を高めていくことができることは、これからますますよい仕事・職場であることの条件となっていくでしょう。高齢者の活躍は、高齢者だけでなくすべての世代の利益に清家 幸いなことに、日本の高齢者は、働くことに生きがいを感じる人が多く、健康や収入のためにも働きたいと考えています。つまり、高齢者の活躍が進むことは、高齢者自身の幸せにもつながります。 また、高齢者が社会保障制度を支えてくれれば、若い世代の負担はぐっと軽くなりますし、子育ての時間なども確保できるようになり、仕事と生活を両立できる働き方も可能になります。 高齢者の活躍は、生産と消費の両方の面でマクロ経済にプラスに働きます。生産面でのプラスはもちろんのこと、働いている人は、働いて得た収入で消費をしますから、高齢者が働き続けることは、消費の面でもプラスになります。これは当然、企業の収益につながります。そしてなにより、社会全体の活力、持続可能性も高まります。 今日の日本において、高齢者の活躍をうながすことは、社会を構成するすべての人にプラスに働くわけです。高齢者のより一層の活躍推進は、企業にとっても、日本の経済社会全体にとっても不可欠なのです。清家 篤(せいけ・あつし) 日本私立学校振興・共済事業団理事長。1992年慶應義塾大学商学部教授を経て、2009年5月から2017年5月まで慶應義塾長を務め、退任後、慶應義塾学事顧問。2018年4月より現職。内閣府の社会保障制度改革推進会議議長、経済社会総合研究所名誉所長、ILO仕事の未来世界委員会委員などを兼任。主な著書に『雇用再生』(NHKブックス・2013年)、『金融ジェロントロジー』(編著・東洋経済新報社・2017年)など。※2 一日の長……知識や経験、技能などが他者と比較して優れていること

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