エルダー2019年12月号
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2019.1220勤務していたが、大阪転勤の話を受け、地元の岡山にとどまるため、20数年前に同社に入社した。入社後は、店舗の賃貸借契約の商談や更新手続きなどを担当している。「店舗の賃貸借の契約というのは、契約期間が長く、何年も先を見越して仕事をしないといけません。個人の地主さんもいますし、高額な取引きになるので、見知った顔ですと、相手は安心感を覚えるようです。契約から何年も経ってから『重森さんいますか』とたずねてこられる方もおりますので、長くいる人間が役に立ちます。そういうなかで、『もう少し働いてもらえますか』と会社から提案があり、その流れで働かせてもらっています。若手も入ってきますが、ケースごとに事情が異なりますので、一朝一夕にはいきません。次に似たケースが起きるのが1年先だったりしますので、少しずつ教えています。目標としては、体系化してシステムとして確立したいと考えています。人が途切れても、仕事が途切れるわけにはいきませんので、次の人に引き継げる形にしていきたいです」(重森さん)2人が長く働くうえで気をつけているのは、ストレスをためないことと、体を動かして健康を維持すること。実は2人はゴルフ仲間で、よく一緒にコースを回るのだとか。自ら専門性を発揮しながら知識と経験を後進に伝えていく風土高渕さんは、これからシニアになる人たちへのアドバイスとして、「私のように実務を離れてアドバイザー的な立場になると、どこまで自分でやるのか、何を助言するのかがむずかしいところです。後進を成長させるためには、出すぎてもダメですし、出なさすぎてもダメ。バランスを考えて、自分で発言や行動をコントロールすることが大事だと思います」と話す。重森さんもこれに同意し、「育てるためには少し引いていかないといけませんが、そのやりようを次の人が感じてくれたらいいですね。私が出ずに引いた、自分は託されたということを理解してもらえると、成長意欲にもつながりますので、そういう進め方を心がけています」と付け加える。2人に共通するのは、後輩たちの成長を願う思いだ。知識と経験を持ったシニアが自ら活躍しながら、後進を育てていく組織を築けている秘訣について、横山部長は、全員が長くプレーヤーとして働いている点をあげる。「期せずしてなのか社風なのかわかりませんが、当社は、マネージャーがいてプレーヤーがいるというより、基本的にオールプレーヤーなのです。部長職であっても、長くプレーを続けます。そこにはノウハウと経験が凝縮されていますので、急に抜けられては困ります。そのため、『スロー継承』とでもいいますか、60歳でいったん区切りをつけた後、時間をかけて継承していくことが風土として根づいています」という。「当社は、偉そうにいえることは何もしていませんが、いまの高齢者はとにかく元気です。年齢という物差しだけで、通常の業務から外してしまうのはもったいない。柔軟に話し合いながら、活躍をうながしていくとよいと思います。従業員を本当に活用できているかについては、当社としても、常に意識を持って考えています。制度は、経営環境や社会情勢などに応じて、時代に合わせて変化していくもの。時代に合わせて、求められる形に柔軟に変化することが大事だと考えています。当社はやっと60歳以上の従業員が増え出してきて、これから高齢者雇用を真剣に考えなければいけない段階です。これからも、試行錯誤しながら取り組んでいきます」と続ける横山部長。一人ひとりの活躍をうながし、長い経験のなかで身につけた知識やスキルを後進に伝えていく同社の取組みは、これからも続く。

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