エルダー2019年12月号
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2019.1224建築資材である鉄骨の組立てを行っている。製品によって異なるが、一日10回ほど同じ工程のサイクルをくり返すという。「単純作業をくり返すと飽きてしまう方もいますが、製品が出来上がるのが楽しく、私はこの作業が大好きです」と終始笑顔だ。石田専務は「徒弟制の師匠のようなもので、若手がつまずいたら、その答えを持っている人。決していばったりせず、人望があるのでおのずと人が寄って行きます」と、絶大な信頼を寄せている。郡司さんは日々、作業中に若手から質問を受け答えることで、郡司さんの技術・技能を伝えている。「若いといっても、だれもがある程度の技術を持っています。寸法の誤差を指摘すると、次か、その次にはできるようになっている。だから今度はまた別のことを教える。そうして若い人が少しずつ技術を習得して成長していくのを見るのは嬉しいです」と若手育成について語る。「熱いし、寒いし、たいへんな仕事ですが、嫌いになってほしくない。例えば、車を買うため、家を買うため、何でもいいから何か一つ働く目標を見つけることが大事。これが仕事を続けたり、技術を習得したり、仕事を好きになるきっかけになる」と手に職をつけるためのアドバイスを贈る。仕事で大事にしていることは、「工場内全体を見渡すこと」。納期に間に合うか、だれか調子が悪い者はいないかなど、全体を見て把握し、何か気がかりなことがあれば上長に報告する。最近は工場が増設され、会社が拡大したことでこれまでのようには会社全体を見て把握することがむずかしくなったが、テクノスチールダイシンの成長をいつまでも見届けたい気持ちは変わらない。65歳から年金の受給が始まった。この区切りを迎えるにあたって、以前は仕事を続けるかどうか迷うこともあったが、いざ65歳に到達してみると、それまでと同様に働く毎日を過ごしていて、特に変化はなかったという。今後についても「70歳以降もフルタイムで週5日働き続けます。日々のペースが変わったら身体の調子が狂ってしまいそうです。私はとにかくモノをカタチにする仕事が好きなんです」と笑顔で締めくくった。若手社員のほかに外国人技能実習生も在籍しているが、郡司さんはお花見など日本の文化を体験できるレクリエーションを自発的に企画するなど、社員の気持ちを一つにまとめようとする心配りをここにも見ることができる。すべての社員が安心して働ける職場にこそ高齢社員が欠かせない会社の歴史が浅く、社員の多くは中途採用であるなか、経験と技術を持ち、予期しない事態にも慌てず冷静に解決策を提示する高齢社員は、若手・中堅社員から「親方」あるいは「師匠」のように尊敬され、また「父親」のように慕われ、社員の心の拠より所になっている。このように、高齢社員の存在が尊重される社風は、すべての社員が安心して働ける居心地のよい職場環境を実現している。今後もさらに同社が掲げる目標を達成するために、高齢社員の活躍が欠かせないことだろう。「鉄筋ひとすじ50年」の熟練工、郡司孝一さん

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