エルダー2019年12月号
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2019.1238複数人で一人分の仕事を分担する「モザイク型就労」前回、人口ピラミッドを逆転して描くことで、大勢の元気高齢者が不安定な就労環境のなかを生きる若者を助ける、という新しい社会構造をイメージしました。当事者であるシニアも、「働けるうちはいつまでも働きたい」と就労に意欲的であり、働くうえで重視することがそれぞれに異なるシニア像も見えてきました。また、2012(平成24)年の総務省による「就業構造基本調査」では、6割の65歳以上の未就労者はパートタイムなどの柔軟に働ける環境を求めていることが報告されました。そのような背景のもと、ICTを活用したシニア層が活躍する新しい社会構造を模索し、研究開発を進めていくなかで、具体的な構想として浮かび上がってきたのが、「モザイク型就労」という働き方です。これは、「空いている時間」に「好きな場所」から「自分の得意な能力」を活かして、無理なく活躍する環境をICTによって構築しようというものです。一人ひとりがフルタイムで雇用されて働くのではなく、複数人で一人分の仕事を分担してこなす働き方に対して、一人ひとりをモザイクのピースと見立てて「モザイク型就労」と名づけました。「空いている時間に好きな場所から自分の得意な能力を活かして」というように、モザイク型就労の形として、三つのモザイク要素を提唱しました。一つめは一人ひとりのシニアが働くことのできる時間を組み合わせて、複数人でフルタイムの仕事をこなす「タイムシェアリング」の要素。二つめは、インターネットを通じてロボットやアバターの身体を遠隔操作して行う「遠隔就労」の要素。三つめは一人ひとりの得意なことや興味関心に応じてマッチングする要素です。働き方改革という言葉もまだないころでしたが、社会の中でシニアから柔軟な働き方を実践していくことを目ざしていきました。一般的な労働市場においてシニア人材のジョブマッチングを行おうとしても、フルタイムで何でもそつなくこなす人材を求めている企業からすると、働き方の条件面で合致させるのはむずかしくなります。また、年齢の問題から時間をかけて会社のやり方に合うように育成することもできないので、即戦力としてどれだけの仕事をこなすことができるのかを事前に知る必要もあります。そのため、人材側、企業側の条件※1 AI・ICT……AI(Artificial Intelligence)は人工知能、ICT(Information and Communication Technology)は情報や通信に関連する科学技術の総称―高齢者から始まる働き方改革― 生涯現役時代を迎え、就業を希望する高齢者は、今後ますます増えていくことが予想されます。そんな高齢者の就業を支援するうえで期待が集まるのが「AI・ICT」※1。AI・ICTの活用で、高齢者が持つ知識や技術、経験を効果的に活用できる働き方が実現すれば、現役世代の負担軽減につながります。それが、〝高齢者から始まる働き方改革〞の姿です。東京大学 先端科学技術研究センター 講師 檜ひ山やま 敦あつしで働き方が変わる第2回AI・ICTの可能性としての「モザイク型就労」

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