エルダー2019年12月号
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̶高齢者から始まる働き方改革̶で働き方が変わるエルダー41む地域を活気づけるような活動に参画していくことができたら、それこそ充実した退職後の生き方につながるのではないでしょうか。大切なことはAI・ICTを活用してどんな未来を描いていくか定年退職した柏市の住民が就労に求めることのうち、健康が維持できることを重要視する人の割合が高かったことは第一回で紹介した通りです。一人ひとりの就労の先に求めるものが多様化していることは、一人ひとりの価値観を見出し、それに沿って地域活動を推薦するAI・ICTが必要になってくることを示しています。現在、日々参加している地域での活動がどれくらいの健康活動に相当するのか、自分の身体のコンディションからするとどの程度身体的な負荷がかかる地域活動が適しているのか、マッチング機能に新たな視点を加えるべく、社会参加を通じたヘルスケア機能をGBERに追加していく研究に取り組んでいます。これからは、ウェアラブル機器※4を通じて集められるヘルスケアデータと組み合わせることで実現することができそうです。もう一つ、熊本県でのGBERの展開をはじめるきっかけとなった出来事として、2016年に発生した熊本地震があります。観測史上で初めて震度7の地震に2回見舞われ、県のシンボルである熊本城も大きく崩れる大災害でした。震災直後にベンチャー企業が救援物資やボランティアのマッチングを行うツールをつくり現場に持ち込んでいたようですが、混乱している現場では新しいツールを取り入れる余裕はなく、その効果は限定的だったと聞きます。しかし、例えばGBERのもつ三つの機能が、ボランティアとのマッチングや、救援物資のニーズ発信、ボランティアのスキル抽出などに適用できるように設計しておけば、普段から使い慣れているものがそのまま災害時にもライフラインとして機能させられるようになるのではないかと考えています。災害時に心身への負荷が大きくかかるシニアだからこそ、日常的に活用できるICTプラットフォームが必要だと感じています(図表)。今年は関東に二つの大きな台風が上陸し、千葉県をはじめ複数の都県で大きな被害が発生しました。そのようなときに、柏市のセカンドライフファクトリーのシニアたちがGBERを通じて、台風で荒れた地域住戸の庭の片づけなどで活躍していました。ICTを通じて、地域のなかでシニア同士が支え合う未来は、確実に近づいてきています。テクノロジーの発展に対して、「AIは人の仕事を奪うのか」という議論が世界中で巻き起こっています。しかし、視点を変えれば逆にGBERのようにAI・ICTは人と仕事、人と社会をつなぐテクノロジーとして成長させることができます。本当に議論すべきことは、私たちが発展するテクノロジーを活用してどのような未来を描いていくか、そこにあるのではないでしょうか。※4 ウェアラブル機器……衣服状や腕時計状で、装着・着用できるコンピュータのこと出典:筆者作成図表 熊本版GBERの三つの機能とライフラインとしての活用可能性

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